青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
泣きたい気持ちを悟られたくなかったから、
「健太!」
俺は元気よくキャツの名前を呼ぶ。
「何だよ?」
可笑しそうに頬を崩してくる健太に、俺はにこやかな笑顔で質問。
「健太さん、人間にとって一番大切なのはハートですが、何故大切なのでしょうか?」
すると健太はキリッと表情を変えて握り拳を作った。
「お答えしましょう圭太さん。それはハートがないと愛は生まれないからです。
愛……フッ、素晴らしいじゃないですか。愛は地球を救うのですよ! 恋愛に友愛に家族愛、アダムとイブの間に愛がなかったら、人類は誕生しなかった! 愛は地球を支えているのです。現在進行形で!」
「素晴らしいお答えですね、さすがは健太さん! つまり俺と貴方の間にも友愛、そうハートが宿っているということですね!」
「そのとおり! ですが圭太さん、貴方は彼女というものを作ってしまって友愛が涙ぐんでいますよ。おれより先に彼女とかありえないんだぜ!」
「シアワセでごめーん! 毎日リア充なんだぜ!」
悪ノリかます俺と健太、「久々に!」「山田山(やまださん)の復活!」「ちげぇって田山田(たやまだ)!」「それこそちげぇ!」
イェーイとハイタッチでギャハハギャハハと騒ぎまくる。
やっべっ、楽しい! これだよこれ、俺と健太はこうでくっちゃ! このノリは久々で楽し過ぎる!
二つの笑い声が神社一杯に広がった。
今だけだと分かっていつつも、あの頃に戻れた俺も健太もこんなやり取りをしたくてしたくて、馬鹿みたいに笑い声を上げた。
あの頃のように不仲じゃなく、あの日々のように、傷付け合った時間を忘れるように笑声を上げていた。
「およよーん? ケン、キャラが違うんじゃないのんのん?」
「ありゃりゃ~? ケイちゃーん第二号がいるぷー」
神社の表に回ってきたワタルさんと魚住の登場に健太は、はたっと我に返る。
曰く、健太は調子乗りの一切を封印しているそうだ。
普段はジッミーでクールな不良で通している(らしい)。
だからチームメートの前で素を曝け出したと分かるや否や、
「いやこれは陰謀で……」
違うのだとアタフタ否定。
愛想笑いを浮かべてこいつに乗せられただけだと、人を親指でさし、ちょいちょいと俺を個別に呼び出して、無理やりしゃがみ込まされた。
「(馬鹿っ! ナニっ、乗らしてくれるんだよ! この性格は仲間に隠しているつっただろう!)」
「(隠し事はいつかはばれるものだぞ? 素直に認めちまえ。お前は生粋の調子乗りだ!)」
グッと親指を立てる俺に、
「っるさいお前ぶっ飛ばすぞ!」
健太は胸倉を掴んでぐわんぐわん揺すってきた。
この調子乗りを封印するのにどれだけ時間を要したと思っているのだ等々責め立ててくる健太に、俺はどこ吹く風で諸手を挙げた。
ごめんちゃいと舌を出せば、相手の怒気が増す。
「圭太。ここで決着をつけたいか」
「お? つけるか?」
言うや俺達は素早く立ち上がって後ろに飛躍すると、ワタルさん達の前で田山圭太は先攻のライダーポーズを取ってみせる。
「誰が呼んだか調子乗りとは俺のこと。青い春で愛の力をつけたリア充田山圭太、此処に参上!」
同じく真顔でライダーポーズを取るのは後攻の山田健太。
「脱調子乗りを目指すも、秘めるツッコミは今も変わらず。外見だけイメチェンしてみた非リア充山田健太、此処に見参!」
瞬く間に傍観者たちは大爆笑し、乗ってしまった健太は真っ青になって膝から崩れる。
「またやっちまった」
調子ノリは中学時代の思い出として封印してきたのに、健太は頭上に雨雲を作って打ちひしがれている。
ふふん、俺は得意げな顔で相手を見下す。