青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―



一頻り笑った俺達は(日賀野に始終怒鳴られたけど耳に入らなかった)、どうにか発作を止めて漸く行動開始。


よくもまあ、此処で奇襲が来なかったよな。

奇襲を仕掛けられていたら俺達はきっとやばかった。


笑い死にしそうになりながら、必死に奇襲から逃げていたに違いない。


行動する前に俺は舎兄に礼を言った。

何故ならヨウのおかげさまで気持ちが強くなったのだから。


「ヨウ、マジでサンキュ。何だか俺、トラウマを少し克服できたような気がする。さっすが兄貴だな! お兄ちゃん最高!」


舎兄は意気揚々と口角をつり上げた。


「だろ? お兄ちゃんはブラザーのために一肌脱ぐんだよ。
いいか、ケイ。恐怖に襲われたら合言葉を思い出せ。

合言葉は『犬っころ』もしくは『ブッコロしゅん』だぜ?

おっと、怒るなってヤマト。
犬嫌いでもいいじゃねえか。噛むことだってあるじゃねえか。

キミだってオレと同じニンゲンダモノ。ドンマイダヨ。ドンマイ」


わぁお、完全に馬鹿にした発言!

ドドドドド不機嫌になっている日賀野は、

「いつかぜってぇ殺す」

握り拳を作り、バイクに跨るヨウを睨んでいた。

「ブッコロしゅんだろ?」

意地悪くニヤっと笑うヨウに、「死ね!」日賀野は空に響き渡るほど大喝破。


俺の制服の襟首を引っ掴んだ。

さっさと来いということらしい。


大魔王様だと思っていた日賀野も幾分俺と同じ平民の顔があると分かったから、トラウマというしこりはまだ残っているものの、さっきよりかはマシになった。

怖いかと聞かれたらやっぱ怖いけど、まあマシになったよ。


少なくとも震えは止まった。震えは、な。


チャリの鍵を解除した俺は、


「どっちが先に着くか勝負だな」


舎兄の勝負台詞を背に受けながら日賀野を乗せて先に出発。


落ち合う場所は俺達の学校の裏門になった。


別に競争する気はないけれど、ド不機嫌オーラを漂わせている日賀野は俺の土地勘を見極めたいらしく、なるべく裏道を使って時間短縮を望んだ。


さっきの犬騒動はなるべく触れないようにして(じゃないとぶっ飛ばされそう!)、俺はちょい思案。

神社から母校までの最短ルートは早速俺は日賀野にしっかり掴まっておくよう言って大通りから細い裏道に入り込んだ。


路地裏に近いその裏道には湿った臭いが立ち込めている。


どこかの店のエアコン室外機に衝突しそうになったけど、難なく避けてチャリをかっ飛ばした。


ガタガタと揺れるチャリにも文句一つ零さない日賀野の顔を流し目。

目を眇めて、一光景を観察する日賀野は腕時計を確認。時間を計っていた。


「まだ飛ばせるか?」


問い掛けに、


「可能ではあります。だけど……」


俺は裏道の出口目前にハンドルを切ってチャリを右折させる。


ブレーキを掛けながら民家の塀にぶつからないよう注意を配ると、その壁に靴裏をくっ付け、瞬時に蹴った。


ぶれるチャリに軽く眉根を寄せる日賀野に、


「曲線は危ないです」


スピードの出し過ぎのデメリットを指摘。



「一直線上に走るなら、限界までスピードを出せますけど……生憎、道は直線だけじゃないので。特に裏道ではスピードを減速しないと衝突事故を起こします。大通りじゃ通行人やバイク、車を意識しないといけませんし」


「なるほどな。だが二人分のチャリの速度は、一人分より遙かに減速する。なるべくは一人分と同じスピードでいきたい。大通りは仕方が無いとして……プレインボーイ。これからまた裏道に入る際は合図しろ。その先は俺が指示する」



「日賀野さんが?」


「俺がお前の目になる。プレインボーイは“足”とハンドルだけに集中しろ。考えて行動する時間はコンマ単位でも削減したいだろ? ただニケツする、じゃあ能がねぇ。ニケツならニケツのプレイがある。予行練習してみよーぜ。実戦じゃ追っ手付きだしな」


にやり、シニカルに笑う日賀野大和に俺は心強さを感じた。


敵にすると厄介なこと極まりないけど、味方にするとめっちゃくちゃ頼り甲斐があるなこの人。


ヨウが頼りにならないというわけじゃないんだけど、頭脳戦じゃこの人の方が上手(うわて)だから……どう動けば効率がいいか、よく考えている。


まるでゲーム感覚のように楽しんでいるみたいだけど、この人は洞察力がかなり長けているよ。


「日賀野さんって、どうしてそんなに戦法を立てるのが上手いんですか? スポーツでもしてらっしゃいます?」


思わず本人に聞いちまった。

コツでもあるのか? そういう風に思考が回るのって。


無難にスポーツをしているのなら、ある程度を戦法を立てるだろうから、洞察力が伸びるだろうけど。

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