青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―



日賀野の指揮の下、俺はいつも以上に早く学校の裏門に到着。


さすがに近距離だったからかバイクには勝てなかったけど、それでも早く着いた方だとは思う。向こうもそんなに待ってないみたいだ。


でも何故か健太がぐったりと電柱に手をついて吐き気と闘っている。

どうした? バイク酔いか?


「あーあ忘れてた。荒川のバイクはめちゃくちゃだったっけ。
また一人犠牲者を出しやがって。プレインボーイ、覚えとけ。荒川の運転は鬼だ。あのアキラですら青褪めて拒むほどなんだからな」


え、瞠目する俺にヨウは血相を変えて違うと全力で否定をした。


「普通に運転できるっつーの! た、ただちっと荒いだけでバイクの運転くれぇなんでもねぇ!」

「そうしてまた一人犠牲になるのか。ケンには悪いことしたな」


「け、ケイ……そんな目で見るんじゃねえ! お兄ちゃんを信じろ。今度乗せてやっから!」


……馬鹿正直な男は視線を泳がせているばかり。

なるほど。

運転できるヨウがなんでバイクを持っていないのか、なんとなく理由が見えてきた。


いつもシズやワタルさんのバイクの後ろに乗っているのは、運転を任せているのは、そういう理由があったのか。

チャリの運転は普通なのにな。バイクだと豹変するのか?



裏門にバイクとチャリを置いて、俺達はそそくさと学校の敷地に足を踏み入れた。

既に学校は終わっているみたいで下校する生徒達がチラホラ。

俺とヨウは学校をサボっている身分だから、あんまり職員室付近には近寄れない。


担任にでも見つかったら最悪だからな。

日賀野と健太も他校生だから、ばれたら不味いだろう。


尤も不良二人は平然と校舎周囲を歩いていたけど。


ビクついてたのは俺と健太の二人のみ!

さすがは不良、先公は怖くないってか?


俺なんて、また説教を受けるんじゃないかと恐さマックスなのに!


あ、しかもホラ、ヨウや日賀野の姿を見た生徒の中には彼等のご存知の方々が目を丸くしているという……ですよねぇ。


この二人、すこぶる仲が悪いんですよ。

訳あって仲良しこよしになっていますが、基本は仲が悪いんで。俺達はそのせいで何かと苦労していますんで。


何はともあれ、俺達は目的地である生徒会室前の窓に立つ。

カーテンがされていない窓の向こうは無人の教室。

まだ生徒会役員は来てないみたいだ。此処で佇んでいても始まらないと俺達は校舎に侵入。鍵の掛かった生徒会室前に立った。


「中で待っていた方が賢明だろうな」


錠の下ろされている鍵を見た日賀野は、

「三分で開けろ」

腕時計を見ながら健太に命令。実戦の予行練習だと言い放つ。


「うっす」


返事をする健太は素早く錠の種類を確認。

ブレザーのポケットから数本の針金を取り出した。


自分で曲げたであろう、その不恰好な針金を器用に穴に差し込んでカチャカチャと作業を開始。

平成のルパンは早くも此処で本領発揮してくれるみたいだ。


「マジかよ。これ、開けられるのか?」


ヨウの疑念に俺は頷いて健太の特技を説明する。


「健太。手先が超器用なんだ。だから簡単な鍵なら開けられるんだよ。めちゃ器用だから配線を繋ぐこともできるし、機械を弄るのも得意なんだ。な? 健太」

「んー? 取り敢えず軽い配線は半田ごてで出来るよ……っと。よし」


カチリ。

話をしている間にも健太は見事に鍵を解除。錠を取って日賀野に時間を尋ねた。

「一分半」

上等だと日賀野はご満悦そうに笑みを浮かべる。

「すげぇ」

ヨウは健太の手さばきに舌を巻き、次いで俺に笑顔で、


「な、ケイ。てめぇもピッキング、取得してくれよ」


とんだことを言い出す。
俺ができるわけないじゃないか。

「テメェがピッキングをできるようになれば、いつでも教室に侵入できしサボれる。俺の舎弟ならできるだろ?」

「健太だからこそ成せる業だって。ヨウの舎弟になれば何でもできるわけないじゃないか」

だったら俺の喧嘩スキルはもっと高くなっている筈だろーよ。
俺のツッコミにヨウはやや残念だと肩を落とし、

「あ。思い付いた」

悪い癖の閃きが出た。
頭上に豆電球を点したヨウは満面の笑顔で、健太に話し掛ける。

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