青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―



ご尤もなことを言う日賀野。


俺も安易に信用は置けなかった。

不良を嫌っているからこそ、嘘の情報を提供している可能性もある。前々から俺達に敵意を向けていたしな、この人。


「わぁお。人が親切に教えてやってるのに、その物の言い草。教えても教えなくても文句かい? 呆れた不良だね」


須垣先輩はヤレヤレと肩を竦めて信じる信じないは勝手だとシニカルに笑う。
 
次いで、ブレザーから自分の携帯を取り出す。


「これには義兄さんの連絡先が入っている」


携帯は一個しかないから連絡手段はこれだけ。

手に入れることができたら、きっと俺達が優位に立てるだろう。


何故ならアドレスには自分と義兄の住所も登録をされているのだから。


さすがの義兄も、住居を知られたら劣位に立つだろう。嬉しいことに!

須垣先輩は口角を持ち上げた。


「おや? 僕がこんなことを言うなんて意外かい。

ふふっ、僕は不良の茶番劇になんて興味ない。
君達がどーなろうと知ったこっちゃない。

逆も然り、義兄さんがどーなろうと僕は興味なし。
僕の人生の妨げにならなければそれでよし、さ。


まあ、義兄さん、ちょい調子付いてきたみたいだから?

少しくらい計画を掻き乱してやってもいいなぁ……とは思うけど、ね。どーしようかな、僕はメリットのある選択をしたいんだけど」


クスクスと黒く笑って須垣先輩は俺達をチラ見。

先輩は俺達の味方をしているわけじゃない。

だけど義兄の味方をしているわけでもないみたいだ。


例え今の先輩の言動が演技だとしても、メリットについての発言に関しては演技だとは到底思えない。

消化不良になりそうなキラースマイルを俺達に向けて冷笑。


それは何処となく五十嵐を思い出させる、先輩の素の顔だと肌でヒシヒシ感じた。


さすがは半分血の繋がった兄弟と言ったところだろう。


おもむろに先輩は行動を起こす。


折り畳み式シルバーボディの携帯を開いた状態にすると、


「本当は連絡しないといけないんだよね」


先輩は目を細めてにやり。


「荒川と日賀野が協定を結んだことは義兄さん、まだ知らないんだよ。僕は知ったけどね? でも報告なんてしてやらない。
義兄さんの意気揚々とした顔を見たくないから。
人生楽ありゃ苦もあるさ、物事が自分の思うが儘上手くいくと思う義兄さん見たくないし?」


須垣先輩は食えない笑みを浮かべて、手に力を籠めた。ちょ、その携帯をまさか……。



「僕は君達に味方するほど優しくない。
なにせ、君達のせいで面倒事を押し付けられたんだから。
だからこれは『バキッ―!』おじゃんってことで。御安心を。僕は携帯を二つも所持するほど金持ちじゃないんで」



ガラクタと貸した機械片を俺達に見せ付けて、須垣先輩は壊れた携帯をポケットに仕舞う。

此処で捨てたら後々全校集会が開かれることを懸念しているのだろう。


基本携帯は持ち込み禁止だからな。


さすが生徒会長。

そういうマナーはしっかり守るらしい。持ち込む時点で校則守れていないけど。


一連の動作を静観していた日賀野は動ずることも無く、だからと言って先輩の挑発に乗ることも無く、なるほどなとばかりに肩を竦めた。


結局は両方の立場を同等にし、これからの出来事を面白おかしくする寸法だろうと解釈。


「更にだ」


この騒動の勝敗など毛頭も興味が無いくせに、自分のメリットを確保したいが故に行動を起こしている。

実は兄をぶっ倒して欲しいんじゃないのか? 今度こそ完膚無きところまでに。


「俺達がヤラれりゃ兄貴様が有頂天になるしな。
プライドを引き裂くほどぶっ倒させて、自分のメリットにする。それか兄貴様の打ちひしがれている顔を単に見たいのかだな。悪趣味なことだ」


「そうだろ?」日賀野の問い掛けに、アイロニー帯びた笑みを浮かべる須垣先輩は次第に漏らす笑声のボリュームを上げた。

最後は天に響くような笑い声を上げて、眼鏡のブリッジ部分を人差し指で軽く押す。


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