青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―



ふわっと青メッシュの髪を風に靡かせて宙に焦点を定めている不良は、黙々と微動のコーヒーだけを飲み進めている。


健太曰く帆奈美さんのことを好いているみたいだからな。

日賀野の気持ちは分からないでもないや。


俺もココロのことを思うと胃がキリキリ痛む。


でも食っとかないと体力も持たないし、みーんなに迷惑が掛かるぞ。


自分から歩むか、歩んじゃうか、トラウマ不良に歩むか俺! あんぱんを渡しに歩んじゃうか?!


だ、大丈夫だ。


あいつが怖くなったら『犬っころブッコロしゅん』だ。


それにあいつだって同じニンゲンだもの!

話せば、ちったぁフレンドリーになれるんじゃないか?!


今のところ惨敗だけどな!

第一向こうのコミュニケーションの取り方に問題もあるし! 田山苛めをしてくるし!


けど時間も無いんだ。さっさと渡してこよう。


「よし」


袋からあんぱんを取って決心を固める。


矢先、ヨウが俺の行動を見越して「放っとけ」と一言。


今、渡しても向こうは食べないだろうとぶっきら棒に言ってきた。


話によると日賀野は喧嘩前になると大抵ああやって一人になりたがるそうな。

もしかしたらああいう時間を設けることで、気持ちを整理しているのかもしれない。


「邪魔をするとすーぐ不機嫌になる」


そう淡々と語るヨウは食べなかったことは自己責任だと忌々しく鼻を鳴らして、勢いよく缶珈琲の中身を胃に流し込んだ。


いや、寧ろ不機嫌はお前じゃないか……とか思ったけど言葉は嚥下することにした。余計な一言だと思ったから。


多分ヨウも帆奈美さんのことで思うことがあるんだろうけど、俺が何か言ったところで機嫌を損ねるだけだろう。


チラッと舎兄を一瞥する。

あらまあ、不機嫌が一変してぼんやり顔になってらぁ。


数秒前まで不機嫌だったのに宙を眺めてぼんやり顔とか……百面相もいいところだぞヨウ。


「どうした?」


当たり障りなく声を掛けてやる。


「ンー」


間延びアンド生返事をするヨウは、三拍くらい置いた後、須垣先輩のことを思い出していたと返してくる。

その場凌ぎの話題は見え見えだったんだけど、深くツッコまず話を続けてもらうことにした。



「あの生徒会長の『不良の犯す愚行は時に家族さえ巻き込む』って言葉を思い出して、なんっつーかアレだ。家族のことを……なぁ。
いや別に両親はどーでもいいけど、散々俺を振り回してくれたしな。なあんにも思うことはねぇ。

ただひとみ姉にメーワクを掛けていたと思うと、ちょい罪悪感だ。
再婚相手の子供で血の繋がりも何も無いけど、ひとみ姉だけはいつも俺の味方でいてくれたからなぁ。入院した時もあいつだけだ、家族として俺を心配していたの」



別段仲が良いわけじゃない。だけど仲が悪いわけでもない。

入院の時を思うと仲の区分する際、きっと自分達は仲の良い部類に入る。不良をやめるわけじゃないけど、義姉にだけは迷惑掛けたくないような気がする。


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