青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
「ひとみ姉。性格も良いしな」
家族の中でいつも愛想よく接してくれるのはひとみ姉だけだと、ヨウは複雑な心境を俺に語ってくれた。
そういえば身内に不良を持つから自分達は迷惑うんぬんかんぬん……須垣先輩は毒をたっぷり含ませて吐き捨てていたっけ。
ヨウやハジメを見ていたら不良には不良のジジョーがあるけど、その身内には身内のジジョーってのが存在するんだな。
何だか話を聞いてたら家族の在り方って難しい。
ヨウは両親と自分の間に壁を作っちまっているけど、味方になってくれる義姉のことを考えていないわけじゃない。
できることなら迷惑を掛けたくないと思っている。身内だからこそ、この問題は複雑化するわけだ。
「ひとみ姉……文句も言わねぇしな」
ヨウは溜息混じりに肩を落とした。
「当たり前のように俺を受け入れてくれるから戸惑うんだよな。
ん、相手を受け入れるっつーのはムズイ。あームズイ。
受け入れるっつーのは相手をある程度認めるわけで?
けど生理的無理な奴もいるし?
迷惑を掛けられたら、そりゃ受け入れるなんてムズイ中のムズイし?
ひとみ姉はやってのけているし? あ゛ーヤダヤダ頭が爆発しそうだ」
語り部は余った缶の中身を一気に飲み干していた。
前半は義姉と家族について吐露をしているけれど、後半は何だか自分自身について吐露をしているみたいだった。
とても複雑な顔を作っているヨウが向こう側を流し目にする。
俺に気付かれないよう流し目にしたつもりなんだろうけど、俺は誰に視線を送ったのか容易に気付いちまった。
そして聞いちまうんだな。ヨウがボソッと言う言葉を。
「キザ男には一生敵わないぜ」
二人の間に入る隙なんて1ミリたりとも無いじゃないか。
分かってはいたけれど何となくムカつく。ああムカつく。
ブツクサブツクサと文句垂れるヨウは舌を鳴らし、唸って、「イテッ」俺の頭を叩いて軽く八つ当たり。
何に対してヨウが苛ついているかって、そりゃあやっぱ日賀野と帆奈美さんの関係なんだろう。
さっき日賀野が須垣先輩に向けた発言を思い出す。日賀野は須垣先輩に向けて人質に対する憂慮(そして好意)を含む発言をしていた。
第三者から見ても、日賀野の切な気持ちは帆奈美さんに対する想いで一杯なんだと分かる。
確かにあんなことを言う日賀野はキザでカッコ良かったけど、ヨウの努力次第ではまだまだチャンスあると思うんだけどな。
本当にヨウも大概で不器用男なんだろうな。
顔はイケているのに恋愛に関しちゃ暗中模索状態じゃんかよ。
「苛々する。自分にも現状にも」
俺にだけ聞こえるような声で呟いた後、ヨウは俺の背中を軽く叩いてまた八つ当たり。
「ぜってぇココロ助け出すぞ。首を長くして王子の登場を待っているだろうしな」
一変しておどけ口調で笑うヨウ。
激しい喜怒哀楽の変わりようは今の舎兄の心情をまんま表しているみたいだ。
荒れているというか、自分の感情処理が追いついていない。そんな感じ。
俺はヨウに笑みを返して、
「お前のイケメン要素が欲しいよ。そしたら王子になれるのに」
他愛もなく言ってやった。
「そりゃそうだ」
憎まれ口返してくるイケメン不良はやや皮肉って補足。
「ま、ルックスだけの世の中だったら俺は今頃天下をとっているけどな。セフレだって取られてねぇし。性格もイケメンになりたいぜ」
俺は舎兄を真似っ子、笑いながら頷いた。
「そりゃそうだ」