青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
「しっかし利二……お前、あの二人よりも親身になって俺の話を聞いてくれるよな」
「性格上というのもあるが、お前だからというのもある。世話にもなってるしな。また泊めてもらっても良いか?」
「いつでも来いよーっ、一日中俺の舎弟不幸話聞かせてやるから」
利二が笑ってくる。
利二はよく俺の家に泊まりに来るんだ。
本人曰く家が堅苦しいらしい。家族と上手くいっていないとかじゃなくて、何となく家が窮屈に感じるらしい。
家に対する反抗期かもな、と言っていた。
透や光喜のところに泊まりに行くこともあるみたいだけど、二人とも電車通だけ家が遠い。
同じ地域に住んでいる俺の家の方が運賃掛からないし、気軽に泊まりに来られる。
「あのアルバム買ったんだ。今度持って来てやる」
「マジで? ぜってぇ聴く!」
「言うと思った」
「良かったか?」
「お前の家で聴こうと思って、まだ聴いてない」
俺は利二と笑い合った。
それは俺にとって心落ち着く時間だった。
適当に駄弁った後、俺と利二は店を出て帰ることにした。
利二もバイトで疲れているだろうしさ。
愛用チャリで来たから途中まで乗せてやろうか? と言ったけど、利二は遠慮してきた。
だよな、ニケツは違反だもんな。下手すりゃ罰金科せられるもんな。
でも俺の舎兄は平然と後ろに乗ってくるんだな、これが。
途中まで俺はチャリを押して、利二と駄弁りながら帰路を歩くことにした。
「んでもよー、モトって不良が俺を敵視してくんの。初対面とか最悪。ストレートパンチかましてきたんだぜ?」
「災難だったな」
「ほんとほんと。でも後で、取り敢えず仲良くは…なったんだぜ? 取り敢えず。ゲーム貸したくらいだしな」
「脅されて貸した、の間違いじゃないか?」
「いやそれが、おっと赤だ」
信号機の色を見ずに歩道を渡るところだった。
危ない危ない。車に轢かれちまう。赤信号、皆で渡っても、やっぱ車は車。轢かれたら大惨事になるって。
「赤信号、皆で渡れば恐くない……誰が考えたんだろうな? 常識的に考えたら迷惑だよな」
「まあな。物の例えじゃないか?危険なことも皆でやれば、乗り越えられる的な…そんな感じだと思う」
「危険なことでも……か。そういやさ、先日の騒動で一つ思ったことがあるんだ」
「何だ?」
「ヨウ達ってお互い仲間を大切にしているなーってこと。部外者の俺から見ても、何かまとまりがあってさ。ヨウなんて、仲間の危機にひとりで突っ走ろうとしているんだぜ? ひとりじゃ危険だって分かっているのによ」
幾ら強くてもひとりじゃ危険だって、あいつ分かっていたくせに突っ走ろうとする。
その必死な顔を見て、ああ追いかけなきゃなって思ったんだよな。結果的に厄介に厄介が上乗せされちまったんだけどさ。
「ああいうのはなんか、見ていて良かったなーって思えるぜ」
「何が良かったんだプレインボーイ。俺も会話にまぜろよ」
俺の肩に誰かの腕が乗って寄り掛かってくる。
いやいやいや、それよりも、今の呼び名。
うわぁ、なんか懐かしいってか、本能が号泣しているっつーか、利二の顔、めっちゃ青い。信号機と同じ色。
あくまで信号機の色は青だぜ。
緑っていうけど俺は青だって言い張る。とか思っている場合じゃない。
ぎこちなく視線を上げれば、黒に青がまじった髪が目に入った。
嗚呼、神様、何度恨んだか分からないけどさ。
今回ほど強く恨んだことないぜ。休日だってこの日に、まさか……まさかの、しかもヨウ達がいない時に、利二がいる時に……。
「今日は舎兄と一緒じゃないんだな、プレインボーイ」
ガムを噛んでいる日賀野大和がニヒルに笑って、俺を見下ろしてきた。