青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
しゃがんでチャリのタイヤを具合を見ていると、
「おい。邪魔だ」
背後から声を掛けられる。否、軽く蹴られる。
前につんのめる俺は慌てて地に手をついた。
あ、アッブネ。
誰だよ、背中を蹴ってくるヤツ!
俺は今なぁ、平成のルパンファミリーの一員になろうとしているんだぞ。
チャリっつーデッカイお宝をパクる……じゃない。
借りようとしているんだぞ。
バッと顔を上げて振り返る。
そこには不良……というよりヤンキー兄ちゃん数人が立っていた。
不良とヤンキーの違いってよく分かんないけど、取り敢えずヤンキーはチャラそうでお洒落な私服を身に纏った奴だと俺は認識している。
集団でチャリを引き連れていることから、俺のいる場所にチャリをとめようとしているみたいだ。
「さっさと退けよ」
俺にガンを飛ばしてくるヤンキー兄ちゃんのひとりは、ふとナリを見てくるや否やニヤッと笑みを浮かべてきた。
うっわぁ悪そうな面だな。
おい、なあに考えているんだよ。どーせロクなことじゃないんだろ?
例えばさ、「交通止め料くれね?」ほーらな。人生初のカツアゲ危機か。俺。
「俺達さ、今チョー金に困っているんだけど?」
へへっ、俺は今チョー金に困っていないんだけど。
寧ろ困っているのはチャリなんだけど!
カツアゲする気ならチャリを恵んでくれ!
良品なチャリを恵んで……あ。
俺はヤンキー兄ちゃん達のチャリをまじまじと見つめた。
兄ちゃん達が持っているチャリ、見るからに超使い勝手が良さそうだな。
ハンドルも俺好みで運転しやすそうだし、二人乗りもしやすそう。
スーパー裏にとめてある多くのチャリは、幼児を乗せるチャリが多いから二人乗りが不可能なんだよな。
ジトーッと視線をチャリに向けた後、ヤンキー兄ちゃん達を一瞥。
顔立ちからして年齢的には俺等と大差が無さそうだよな。
うん、これはもう……善良な一般市民様のチャリをルパンの如く盗むよりは、俺という弱い者をカツアゲしようとするヤンキー兄ちゃん達を選んだ方がお互いに得策。罪悪感も薄れるってもんだ!
「おい聞いてんの?」
片手でチャリを支えながら、片手で胸倉を掴んでくるヤンキー兄ちゃん達に俺は満面の笑顔を浮かべる。
「いやぁ。良いチャリですね。いいなぁ、羨ましいなぁ、此処にあるチャリのどれよりも乗り心地が良さそうだなぁ」
ヘラヘラ笑う俺に訝しげな眼を向けるヤンキー兄ちゃん達。
何処からともなくパキパキっと関節を鳴らす音が聞こえてきたけれど、俺は構わず言葉を重ねる。
「すみません。ちょーっとお借りしますね。絶対此処に戻しますから! 三台ほど頂きます」
「はあ? さっきからナニ言っているんだ。ザケてないで金をさっさと「口答えするなんざナンセンスだな」
ガシッ、俺の胸倉を掴んでいる腕を握ったのは日賀野大和さま。
ドえりゃあ笑顔なのは、素晴らしいチャリが見つかったからか。
それとも鬱憤を晴らせるカモが見つかったなのか。とにもかくにもニッコリ笑顔がちっとも似合わないその不良は、
「ウダウダ言わず、貸せよ。そのチャリ」
輝くスマイルで作った握り拳を見せつけてきた。
「そーそー。ありがたーくチャリを借りるだけだから安心しろって。あとケイから手ぇ引いてもらえるか? そいつは俺の相棒だ」
パキパキッ、反対側からこれまた輝くスマイルを作っている不良さま一匹。
地元で有名過ぎる不良二人に笑顔を向けられるなんて、ヤンキー兄ちゃん達はカワイソーだ。どういう運命を辿るか容易に想像ついちまう。
実質、ヤンキー兄ちゃん達は「え、お前不良の仲間?」みたいな顔を青褪めて向けてくる。
「こいつ等、日賀野に荒川じゃね? その赤と青のメッシュ……そうだっ、日賀野に荒川だ! ってことはこの冴えない野郎は荒川のしゃ……舎弟?!」
「あ゛?! 聞いたことがある。荒川が異色の舎弟を作ったって……こ、こいつか!」
隣町にまで俺等の名前は轟いているらしい。
有名なったよなぁ、ほんと。まったくもって不名誉な有名だけどな!
「チャリ渡せ」
日賀野の極悪笑顔、
「仲間から手ぇ放せ」
ヨウの凶悪喜色満面、何処吹く風で視線を逸らす俺に、ヤンキー兄ちゃん達の見事に真っ青面。チャリ置き場はカオスなことになっていた。
そして笑顔を貼り付かせたままの不良二人が動いて刹那、ギャアアアアアア―――!