青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―




「――うっし、不良流の貸し借りも済ましたし。ヤマト、準備万端だな」


「ああ。こっちの動く準備はな。後は協定チームと連絡係りが上手くやってくれる筈だ。取り敢えず連絡を待つぞ」



腕時計を見て時間を確認している日賀野はヨウにそう返事をしている。


ちなみに“不良流の貸し借り”を目の当たりにした俺の心境は、かなり穏やかなものじゃなかった。

しごく怯えています、目前二人の不良に。



やっぱお前等手を組んだ方がいいんじゃね?

ナニ、あの不良達をシメる……じゃない、不良達に物を貸してもらう時の身のこなしっぷり。


動きが軽やか過ぎて俺は開いた口が塞がらなかったヨ。


もはや二人に恐怖どころか、ある意味尊敬の念を向けたくなったね!

そしてシメられ……じゃない、自転車を泣く泣く貸さなきゃいけないことになったヤンキー兄ちゃん達にはすこぶる同情した。本当に同情した。


心中で当時のことを思い出しつつ、俺は借りたチャリに跨ってハンドルを握ったり離したりして気を紛らわす。


チャリを調達した後、俺達は“港倉庫街”から目と鼻の先にある寂れた駐車場に溜まっていた。


わざわざ人目のつかない住宅街の中の一角にたむろっている。


殆ど駐車されていないその場所で、周囲に五十嵐の刺客の目が無いかどうか警戒心を払いながら刻一刻と進んでいる時間を肌で感じていた。



もう五十嵐との対決は目前だ。

一時間以内で残り24時間を迎える。
丸一日でどうにかこうにか人質を救出、キャツとも決着をつけないと。早くココロに会いたい、無事を確認したい。

募る感情を静かに嚥下して俺はふぅっと息を吐いた。

感情だけ先走りしても好い結果はやって来ない。

慎重に尚且つ迅速に相手陣地に乗り込まないとな。


「最終の打ち合わせするぞ」


時間を確認していた日賀野が腕時計から視線を外した。


これから先は二手、否、三手に分かれて行動する。


まずは斬り込み隊。両協定チームと一緒に突っ込んでいく。

五十嵐が用意した協定チームはこっちの料亭チームに任せて、斬り込み隊はとにかく五十嵐達を引っ掻き回す。


指揮を取るのは我等がチームリーダーのヨウ。率いるのは両チームの副頭にタコ沢、ホシ、紅白饅頭双子不良。

手腕もしくは体力根性に自身のある奴等ばかりが集っている。


そして挟み撃ちを仕掛ける本隊の指揮を取るのが向こうチームの日賀野。

面子は俺、ワタルさん、魚住、キヨタ、イカバにモト。健太、響子さんと弥生。


本隊から救出隊として何人か抜けたりするけれど、基本的に少人数で行動。

裏からなるべく向こうの戦闘スタイルと現状を把握し、探りを入れつつ合流する役目を任されている。


「斬り込み隊の行動手段はバイクオンリーだが、本隊はバイクプラスにチャリでいく。いいか?」


すると異議ありとばかりにヨウが口を挟む。


「一台だけこっちに回せヤマト。斬り込み隊とはいえど、混乱するであろうその場の状況を冷静に見る役目が欲しい。バイクよりかはチャリの方がやり易いからな」

「なるほど。馬鹿にしては考える」

「だろ? ……ん? おいヤマト、今なんて」

「ミジンコからノミくれぇの脳みそを持つようになったじゃねえかって褒めているんだよ」

「ノミ……」


表情を引き攣らせるヨウに対し、何処吹く風でチャリを一台回してやると日賀野はニヒルに笑いながら肩を竦めた。

よって危うく喧嘩ムードが二チームを襲うところだったけど、時間が押してることもあり何とか喧嘩にまでは至らず済んだ。


ヨウはすっげぇ日賀野をぶっ叩きたい面してたけどな。


ホントこの二人、好いコンビなんだか悪いコンビなんだか。

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