青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
「馬鹿にされているっ。ククッ……馬鹿……ククッ……アタマ悪そう……ククッ確かに皆、アタマ悪そう。どっかの誰かさんは……食い意地を張ってロールケーキ如きで怒れていたしな」
するとシズの眠気が何処かへ吹っ飛び、わなわなと彼は震え始める。
どうしたとヨウは運転手に声を掛けた。我等は副リーダーは握り拳をグッと作って燃えた。怒りに燃えた。
「ロールケーキ如き、だと? ロールケーキを何だと思っている!」
「おい……シズ」
「ふんわりとした生地の中に滑らかなクリームが入っている。
口に入れると二重の美味さを奏でるロールケーキを馬鹿に、よくも馬鹿にッ。ロールケーキに謝れ、今すぐ謝れ、作っている職人さんにも謝れ!
第一食い物を蹴り飛ばす意味が分からない。
あの時、斎藤が蹴り飛ばしたロールケーキはコンビニでプレミアムだと称された一個150円のロールケーキだぞ。
自分へのご褒美として買うのに打ってつけのデザートだぞ。意味不明だ。蹴り飛ばすのにイミフだ、イミフ」
「……テメェはOLか」
「ヨウ、悪いが自分は向こうの副頭と此処で決着をつけなければならないようだ。後のことは頼む」
「はあ?! おまっ、ちょ、待て待て待て! 馬鹿っ、降りようとするんじゃねえよ、運転手!」
自分はまだロールケーキの仇を取っていない。此処でケリをつけてくる。
そう言い張るシズを押さえつけて、
「落ち着けてって!」
ロールケーキの仇は五十嵐との決着を終えてからでいいではないか。
ヨウは怒れるシズにそう愛想笑いを浮かべた。
間違っても“たかがロールケーキ如きで”なんて口にしてはいけない。矛先がこちらに向けられるだろうから。
一方で笑いの発作を押し殺しているのはススム。
「いっそ笑い飛ばしたい」
必死に笑いを抑えている笑い上戸な不良を見たシズが、
「焼きを入れたい……」
先ほどヨウが口にした台詞をまんま吐露。
子供の戯言だと思えばいいじゃないか、ヨウの助言にシズはそういう問題じゃないと怒りに震えていた。状況があべこべである。
「ねえねえ、この調子で大丈夫なわけ? 僕、心配になってきたんだけどリーダー」
「まったくだな。チームワークばらばらじゃねえか」
斬り込み隊唯一のチャリ組、タコ沢とホシが心境を口にした。
チームワークがばらばらと言われても、仕方が無いではないか。
自分と双子不良は置いておいて(これを自分のことは棚に上げると言うのだろう)、いつも冷静沈着なシズに何があったかは知らないが(どーせ食い物の恨みだろうけれど)、ススムに怒りを抱き憤っているのだから。
自分が仲裁される分には慣れているからいいものの、まさか仲裁役を買う羽目になるとは。
しかもいつも自分を宥めてくれる副リーダーが相手。妙な気分になる。
どうどうとシズを宥めるが食い物の恨みは何とやら。
彼はしきりにロールケーキの無念をブツブツと唱えている。
それを見て笑いを押し殺すススム、シズのボルテージがワンランクアップ、悪循環なこと極まりない。
そうこうしている内にも、無数のエンジン音が鼓膜を微かに振動した。
ヨウは顔を上げると振り返って目を眇める。
夕月夜の空一杯にホーンを鳴らして合図を送ってくる不良達。
ハジメが寄越した不良達だ。
先頭を走っているのは向こうの頭であろう不良と、協定を組んでいるチーム頭の浅倉。
彼はヨウの姿に気付くと向こう側を指差し、先に突っ込むぞとばかりジェスチャーで合図。
頷く間もなくヨウ達の脇をすり抜け、協定不良達が突っ込んで行く。
甲高く唸るエンジン音を空に舞わせながら、風を切って突っ込んで行く彼等の頼もしい背を見送ったヨウは喧嘩している場合ではないと微苦笑を零し、指笛を吹いて仲間達に挙手。
自分達も斬り込み隊として役目を果たす。
その意味合いを込めて片手を挙げた後、ヨウは運転手に出すよう指示した。