青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
「「無茶苦茶だ!」」
突っ込むという指示を送り出してきた指揮官に玉城不良兄弟は口を揃え、ススムはふーっと意味深に溜息。
「ヤマトの言ったとおりだな……戦法とも言えない戦法で相手に攻め込んでいく」
直球勝負といえばそれまで。単純シンプル戦法といえば、まさしくご尤も。
シンプル過ぎる単純戦法に呆れるしかないが、今の指揮官は荒川庸一である。従うしかない。
どうなるかは置いておいて、責任は向こうに取ってもらおうではないか。でなければやってられるか。この不慣れ単純戦法。
成功することを願いつつ、ススムは言われたとおりバイクの速度を上げた。
ススムが速度を上げたおかげで、玉城不良兄弟も観念したのか速度を上げて来る。
しっかりと自分達について来てることを確認したヨウは口角をつり上げ、シズの肩に手を置いた。
「頼むぞ。運転手」
「了解……リーダー」
珍しくも楽しそうに笑みを零すシズは前を見据え密度の高い敵の集団に突っ込み、文字通り“特攻戦法”を実施した。
器用に向こうのバイクを避けつつ、敵の運転手に妨害。
軽く向こうの腕や角材に当たりつつも、怯むことなく集団を突き抜けていく。
走り去る際、敵の持っていた角材を強奪したヨウは「最近の喧嘩は武器を使うが主流なのか?」と、苦笑い。
拳には拳で勝負、なんて考えを持つ自分は果たして古い人間なのだろうか。
取り敢えず防具として持っておこう。
眺めの角材を脇に挟み、背後を振り返って仲間達がついて来ているか再確認。
どうにかこうにか特攻戦法について来ているようだが、無鉄砲作戦に不慣れなのかゲンナリした表情が窺える。思わずヨウは苦笑する。
「やーっぱこの戦法は俺達のチームならでは、だな。
さてと本隊が待っている。早く五十嵐達の所在を掴まないと。挟み撃ち作戦もクソもねぇしな。シズ、五十嵐の姿は?」
「見えないな。まったく……何処に息を潜めているんだか。手当たり次第、敵に突っ込んではみるが」
「ああ。たのむ……」
ヨウは途中で口を閉ざした。
「どうした?」シズの問い掛けに、「ちょい待て」取り敢えず手当たり次第、敵に突っ込んでおいてくれと頼み、自分は思案を巡らせる。
五十嵐はわざわざ因縁の場所でもある“港倉庫街”を血祭りの場所として選んだ。
因縁の戦法、『漁夫の利』作戦を決行し自分達に勝利。
それだけでは足らず、忌まわしき“港倉庫街”を選択する。
ということは五十嵐は何らかの形で因縁に固執している。
あの時の敗北を浄化するように、因縁の場所や戦法で自分達に勝負を仕掛けてくる。
考えろ、考えることが苦手でも今はよーく考えろ。
五十嵐の性格上、奴はどデカく高いプライドを持つ男。
自分に逆らうものはすべて屈するよう、強弱者関係無しに追い詰める男。
その男が自分達に大敗をした。大敗を浄化したい筈。
何も無かったことにしたい筈。
だったら――ヨウは瞠目し、そうかと呟いた。
「俺達が五十嵐を伸した倉庫の場所。五十嵐はあそこにいるに違いねぇ……シズ。テメェ憶えているか。確かトタン壁っぽい古い倉庫だった筈だったんだが」
シズは間を置いて相槌を打った。
「ああ。この港倉庫街で一番古く大きい……クレーンやドラム缶、沢山の機材類が詰め込まれていた場所だったことを憶えている。
ヤマトが立てた『漁夫の利』作戦にも適していたしな。
あの作戦は自分達の存在をギリギリまで気付かれないよう……尚且つ、相手の様子を窺う必要性があった。極端に物が多く、身を隠しやすかったあの倉庫のことは、よく記憶に残っているが……」
「そこだ! 頼む、そこに行ってくれ! きっと五十嵐はそこにいる! あいつは自分のヤラれた場所で俺達をヤたいんだ! すべてを白紙にするためにケリをつけたいんだ!」
必ずそこにいるという確証は無いが、長年培ってきた喧嘩への勘が騒いでいる。奴はそこにいるのではないかと。
闇雲に混乱を起こしてキャツを探すよりも当てがある限り、一抹の可能性でも信じてみようではないか。
自分を信じてヨウはシズに“あの時”の戦場に向かって欲しいと頼み込む。
間髪容れずシズは了解だと綻び、ハンドルを切りながら仲間達に指示するよう促す。
一点の曇りもなく自分の勘を信じてくれている副頭に、ひとつ自信を持ったヨウは早速後尾を走る仲間達に指笛を鳴らして指示。
自分達に迷う事無くついて来いの意味合いを込めて指笛を鳴らした。