青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
「あの阿呆」
カッコつけてどーするのだ、一歩間違えれば怪我を負っていたというのに……と悪態ついている副頭の呆れ声など耳に入らない。
勢いづいた飛躍も見事に着地してみせ、不良達の集団挟んで向こうの親玉に睨みを飛ばす。
「仲間は何処だ!」
一変して喝破するヨウに、
「さあな」
探し出してみせるのもゲームの余興ではないかと五十嵐は鼻を鳴らす。
一々癪に障る奴だ。
舌を鳴らし、上等だとばかりに上唇を一舐め。ヨウは自分の力で探し出してみせると挑発を買った。
「テメェをぶっ倒した後にゆっくり探してやる。覚悟しろよ、五十嵐……たっぷり礼を返してやる。俺や仲間、チームに浴びせた屈辱は此処で晴らしてやる!」
「よく吠える男だ。奇妙な面子と一緒だしな。数人、日賀野の仲間が紛れている。ということは、お前等、手を組んで何か目論んでいるな」
やや五十嵐の表情が険しくなる。
自分達がどんな狡い手を使って攻めてくるのか必要以上に懸念しているようだ。
『漁夫の利』作戦を凌ぐ湖水手を使ってくるのではないか、と思案しているのかもしれない。
残念、今回は狡い手というより頭脳戦。
正々堂々とした立派な戦略を立てさせてもらった。
単純且つシンプルで両チームのお得意分野がふんだんに生かされた戦法で攻めさせてもらう。
まあ時機が来るまで戦法のことは明かしてやらないが。
「目論み? ッハ、そんなまどろっこしいことしねぇよ。俺はヤマトと違うからな、真正面から挑ませてもらうぜ」
嘘は言っていない。
自分達の役割は真正面からキャツに挑み、混乱を引き起こすことなのだから。説明不足ではあるけれども、嘘は一点も言っていない。
真正面から挑む、これはまさしく本当のことであり本音、そして現実になるのだ。
にやにやっと余裕綽々に笑みを浮かべ、ヨウは地を蹴って不良達の集団に突っ込む。否、五十嵐に向かって駆け出した。
一方でヨウを援護するために、バイク組が集団を散らそうと機械を乗り回す。
だがバイクでは散らすのに限度がある。
その上、敵は頭を使ってバイクが来られないようドラム缶を踏み台に伝ってコンテナにのぼってしまう始末。
寧ろのぼられたことにより、上から襲い掛かってくる危険性も出てきた。降りて戦うのが無難だろう。
「此処からは持久戦か」
ヤレヤレとばかりに肩を竦めるススムは、バイクの速度を落としつつ隣を走る向こうの副頭に声を掛けた。
「お前のところのリーダーは本当に無鉄砲だな。敬服に値する」
「否定はできない……だが、そんなヨウに……救われているところもある。ヨウも良くも悪くも真っ直ぐ……なんだ」
だから手を焼いたりするんだけどな。
苦笑を零し、シズはヨウに向かって指笛を吹いた。
不良の集団に阻まれ、なかなか思うように前に進めないヨウが苛立ちながら振り向いてくる。
しかし彼は指笛の意味をすぐに理解し、指笛を返して大きく頷いてきた。
合図を送れということだろう。
大ボスを目の前に完全に合図のことを忘れていたらしく指笛を吹いた後、片手を出して謝罪してくる。
まったく頼れるリーダーなんだか、不甲斐ないリーダーなんだか、分からない奴だ。