青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―



◇ ◇ ◇



少し時間は遡り、ヨウ達が乗り込んで三十分後の港倉庫街正門前。 



ブオンブオン――。

それはまるで呻き声のよう、あの音はヨウ達がドンチャンしているバイクのエンジン音だろうな。


遠くから聞こえてくるバイクの忙しいエンジン音に俺は一つ吐息をつく。


只今待機中の本隊は三十分ほど前から正門で待っているんだけど、ヨウ達は激しくドンチャンしているようで、だだっ広い“港倉庫街”から此処正門前までエンジン音が聞こえてくる。


正門に到着してからずーっとエンジン音が耳に纏わりついて離れない。


ハエの羽音みたいに微かに聞こえるエンジン音もあれば、あからさま周囲に迷惑を掛けるエンジン音まで多々鼓膜を振動してくる。


暮夜の刻になっているんだ。

その音は白昼よりも余計大きく聞こえる気がしてならない。


それにしても大丈夫かな、ヨウ達。

上手くやってくれてるといいんだけど。


もう三十分経っている。

本当に遅いってヨウ達。

十五分程度で合図を送る話だったのに二倍時間が掛かっているじゃんかよぉ。


チャリのサドルに座り、前屈みになってハンドルに凭れる俺は舎兄や仲間達の安否が気になって仕方が無かった。


予定時刻が大幅に遅れているんだ。


そりゃ向こうに何かあったんじゃないかと憂慮も抱いてしまう。


幾ら手腕揃いとはいえなぁ、斬り込み隊のヨウ達は本隊と比べて小数だし、敵数も把握してないし、協定チームを率いても……向こうの協定チームの数が分からないとなぁ。


ここまで遅いと敵数は多そうだ。


合図がなかなか無い点も気になる。ヨウ達の身に何かトラブル、もしくはハプニングが起きたのかもしれない。

相手はヨウ達を苦しめた五十嵐だもんな。罠を仕掛けられた可能性もありうる。


ただでさえココロのことで心配なのに、ヨウ達のことまで心配になってきた。

俺は何人心配すりゃいいんだよ。


田山の許容範囲オーバーしちまいそうだぜ。


苦虫を噛み潰したような気持ちを味わっていると、


「あ゛ー」


苛立たしげな声音が聞こえてきた。

恐る恐る声音が聞こえた方を見やれば、イッライラして地団太を踏んでいる我等が本隊指揮官の日賀野大和。


忙しく腕時計と睨めっこしている。


メチャクチャ機嫌が悪いことは言うまででもなく……。



「おっせぇ。マジおせぇ。なあにしているんだ荒川の奴。計画では十五分以内に合図だろうが。もう三十分経ってっぞ。
手間取る時間を考慮しても三十分はねぇだろうが三十分は……まさかあの野郎、喧嘩に集中し過ぎて合図のことを忘れているんじゃねえだろうな。

ススムやホシがいるから大丈夫だとは思うが可能性はなくはない。
寧ろ奴の性格を考えると可能性は大きい。


過去を辿ってみりゃ……ンなヘマしてみやがれっ、末代まで祟ってやるあの単細胞生物」



パキパキ――。


両手指の関節を鳴らし、こめかみに青筋を立てている日賀野の不機嫌オーラのおかげさまでスッカリ辺りの空気は濁っていた。


は、ははっ、まさかヨウの奴。

日賀野の言うとおり、喧嘩に熱中し過ぎて合図のこと忘れているんじゃ……いやいやいやヨウだって成長したんだぜ? そんなこと! ……あー、そんなこと無いとは言い切れない悲しい現実。


ヨウならヤラかしそうだ。

シズが傍にいてくれるから大丈夫だとは思うんだけど。


はぁ……小さな溜息をついてハンドルに肘をつく。

そんな俺の様子を見て声を掛けてきたのは健太だった。


「大丈夫だって。きっと上手くやっているさ、今は手間取っているだけだよ」


綻んでくる。


「それよりお前は自分の心配しとけよ……機嫌の悪いヤマトさんの前でヘマしたら、後でフルボッコされるから。圭太、ヤマトさんを後ろに乗せるんだぞ」

「ば、馬鹿、脅すなよ」


「マジマジ。ヤマトさん、計画が狂うのを……いっちゃん嫌っているから」


計画を立てるのがお得意な日賀野は、それを壊されるのがすこぶる嫌いらしい。


ドッと冷汗を流す俺はブルッと身震い。

だ、大丈夫だ。怖くなんか無いぞ、日賀野なんか怖くないぞ、怖くなったら『犬っころブッコロしゅん』だもんな!

魔法の言葉一つであら不思議、日賀野不良症候群が抑えられるのだ!


とはいえトラウマ不良なことには変わりないしな。


ど、どうしようヘマなんてしたら……お、俺、命が無いかもしれない。

命があっても、また入院しちまうかも!


あああっ、これもそれもあれもどれもヨウ達が早く合図を送ってくれないからだ!

日賀野の機嫌がどんどん低空飛行になっているじゃんかよ!


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