青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
ブルブルブル、想像するだけで身震いが止まらない。
ゾゾッと背筋を反らして恐怖と闘う俺に、
「でもヤマトさん優しいって」
健太は根拠も無い励ましを送ってきてくれた。
ばかやろう、優しさってのはな。
人のぬくもりでデキているんだぞ。
優しかったら誰が好き好んでイタイケな地味男をフルボッコするんだよ。
優しさどころかキャツの悪意を感じたんだが!
そりゃ健太は同じチームだから?
優しいところも見てるかもしれないけど?
俺は優しさよりジャイアニズムを発揮している日賀野の方しか見ていないし。
「例えば?」
優しい一面を聞けば震えが止まるかもしれない。
俺の問い掛けに、「たとえば……」健太は三拍間を置く。
「……案外太っ腹でジュースとかを奢ってくれた!」
「……俺も奢ってもらったことあるぞ。だけどそれは俺の友達の財布をスリして奢ってもらったけどな。しかも何故か野菜ジュース、忘れもしない」
一拍間が空く。
「け、結構面白い話が好きでさ。おれのシラけそーな話も笑って聞いてくれる」
「そういや俺も笑ってくれたっけな。フルボッコ前に習字の話をして。そりゃもう、馬鹿にされる勢いで笑われた」
また一拍間が空く。
「ちょ、超喧嘩が強くてさ! 仲間のおれ達を助けてくれるんだぜ!」
「ホーンット喧嘩強いよな。俺、身を持って体験した。フルボッコで」
更に一拍間が空く。
「じ、実は女の子には優しいんだぞ! 女の子の気持ちをいつだって察するキザな人だ!」
「残念な事に俺はオトコだから優しくされたことなんてございません。寧ろ苛められるのですが?」
俺と健太の間に沈黙が下りる。
健太はヤケクソになって「とにかく大丈夫で優しいんだ!」投げやりに励ましを送ってきてくれた。
勿論、俺は感謝感激感涙、日賀野の優しい一面を教えてくれてありがとう! なんて気持ちにもならず、いえ、なれず、大きく溜息をついてこれから身に降りかかるであろう災難に苛むことになったのは言うまででもない。
ったく、優しい一面をちゃーんと考えてから物を言えってんだ。
おかげさまで嫌な記憶たちを思い出して、もーっと気鬱になったじゃんかよ。
「どーしよー」
ゲンナリして合図を待つ俺と、「大丈夫だって」何度も励ます健太。ついには健太、ヤケクソもヤケクソになってこんなことを言い始めた。
「圭太、憶えているか。あの日のことを。あの日、お前はおれに言ったじゃん。『不屈の精神を持つ男に、俺はなる!』って。こ
んなことで屈しちゃ男が廃るぞ! 男が腐ったらナニになると思う? 答えは一つ、カマ一直線なんだ! 圭子になってもいいのか!」
「あらやだ、圭子になってもいいかもしれない。アタシが圭子になる日には、アナタも健子ね」
「まあ、仕方が無いわね。覚悟を決めておくわ」
お互い男が廃れた日には、夜のバーで働きましょう。
おほほ、おほほ、口元に手を当てて二人で笑声を漏らしていたら、「バーカ!」揃ってモトにアタマを叩かれた。
イッテェ、何するんだよモト。
折角ノリノリでお互いに空気を緩和しようと頑張っていたのに。
頭を擦る俺と健太に向かってモトはバカタレと握り拳を見せてきた。
「今、ヨウさんが頑張っているのに、なあにおふざけしているんだ? 特にケーイー。ア・ン・タ、ヨウさんの舎弟としての自覚が足りてねえんじゃねえの?!」
あ……しまった。
ギッとモトに睨まれて、俺、田山圭太は猛省の意味を込めてごめんなさいと両手を軽く挙げる。
いやだってな?
シリアスムードバッカじゃ精神的に疲れちまうじゃんかよ。
リラックスすることもニンゲン必要だと思うんだけど。
「ちゃーんと自覚しています」
言葉にしても反省してみる。
だけど片眉をつり上げっ放しのモトは、
「ホントか? 信用できないんだけど」
と、言って頬を抓ってきた。アイデデデっ、モト、ギブ! 加減無しに抓るのタンマ! 反省しているって、マジで!
「アンッタがそんなんだからっ、オレの気苦労は絶えないんだ。いっそアンタの舎弟になってその根性、叩き直してやろうか!」
ゲッ! それは無いっ、無いから!
ンなことになったら、毎日がお前のお小言じゃんかよ!
じょーだんじゃない!
お前ってヨウのことを崇拝し過ぎているから、過度なまでに悪いところを指摘してきそうで怖いんだよ。
それに……あーモト、その発言は撤回しないと。今度はお前が危ない。
俺は抓ってくるモトの手の甲を指で突っついた後、後ろを指差した。