青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―



「あ゛ん? ナンだよ」


振り返るモトは、仁王立ちして脹れっ面を作っている親友の姿を目の当たりにして顔を強張らせる。


「なーんちゃって」


言葉を付け足して、抓っていた俺の頬から手を放してみせるけど、ぶーっと脹れているキヨタは、口をへの字にしたまま。


ジトーッと相手を睨んで威圧あるオーラを放ってくる。


「やっぱさぁ、モトさぁ、モトってさぁ」


「だあああっ! 違うっ、違うから! お前ってどーしてそう勘違いするんだよ!
こんなんで一々過剰反応してたらなぁ、身が持たないぞ!
オレなんて最初からケイとヨウさんの舎兄弟を寛大に見てるんだし。お前も海のようにヒローイ心を持たないと! 舎弟に昇格できないぞ? な?」


ははっ、最初から寛大な心で見てくれたら?

初対面相手(俺)に喧嘩なんて売らないよな、フツー?


ご都合なことを言って親友を宥めるモトに、俺はまた一つ溜息。別にいいんだけどな、モトのご都合発言やヨウ崇拝発言には慣れているし。


肩を竦めていると、健太が苦笑い交じりにイイ仲間だなと話を切り出してきた。


ま、個性豊かではあるけどイイ仲間ではることには違いないし否定する気も無い。


俺は頷いて中坊組を見つめた。


むっとした顔で迫るキヨタに、愛想笑いを浮かべて目をきょどらせているモト。

ああいう風にモトがキヨタに嫉妬されても、キヨタがモトに嫉妬していても、仲が良いことは一目瞭然。


あんな時期が俺達にもあったな。おかしいな……中学時代の思い出が蘇ってくる。


一年も経ってない筈なのに遠いとおい昔に感じる。


「なんかああいうのを見ていると、ほのぼのするな」


健太がポツリと零す。拾い上げた俺は間を置いて口を開いた。



「健太。俺、今でも思っているよ。お前とはまた昔みたいに元通りになれるって。この騒動が終わって、また二チームが対立し始めても……さ」



俺の言葉に一瞬硬直、刹那、「どうだろうな」生返事をして曖昧に笑う。


今回が最後かも、こんな風に和気藹々と仲良く会話交わせる時間を持てるのは。

苦言を零して、健太は俺から距離を取るために背を向けた。


「健太」


声を掛けても、振り返ることは無い。さっさと俺から離れて逃げちまう。


お互い“あの頃”に戻りたい気持ちは一緒なんだよな。


でも健太は俺よりもずっとずっと長く、深く、俺等の関係に悩んでいたから安易な事は口にしないんだと思う。


口に出来ない、のかもしれない。


そんな風に言っちまったら俺の気持ちは安易に言っているのか、という話になるけど、それは絶対にない。

俺は心の奥底から思っている。


またあの頃みたいに戻れる、と。


甘っちょろい希望を持ったってイイじゃないか。


だってこうやって和気藹々と会話できたんだから。


お前、俺のこと真摯に心配してくれたんだし……戻れると信じてもいいだろ?


目を眇めて健太の背を見送っていると、背後から腕が伸びて突然首を絞められた。


く、苦しい! 誰だよっ、こんなことをしてくる奴ッ……視線を上げて犯人を確認。


オレンジ髪と下唇のピアスが視界に入って犯人の正体を突き止めた。


まあ、ある程度は予測してましたよ。ワタルさん。

俺をこんな不意打ちを仕掛けるのはヨウかワタルさんしかいないから。


「フラれたねぇ」


健太を指差して、笑声を漏らすワタルさんは始終俺等のやり取りを見ていたらしい。

ドンマイだと肩を叩いてくる。


「ワタルさんの方は?」


元親友と仲良くできたか、仲直りできたか、意味を込めて質問。

ムーリムリと手を振ってくるワタルさんだけど、手を結んで以降はわりと魚住と一緒にいないか?

少なくとも話し合いの時は肩を並べていたところを多々見たんだけど。


フツーに会話しているところも多々見たんだけど。


それを率直に聞けば、「張り合っていた」喧嘩をしていたのだとケラケラ笑う。



「水面下でいーろいろとヤっちゃってさぁ。
まあ、悪口が主だったんだけどんぶり。笑いながらお互い、“表に出て喧嘩おっぱじめる”かどうかで火花ムンムン。皆に隠れて喧嘩してたよぉ、た~のすぃー!」



はは……チョー物騒。


引き攣り笑いを浮かべる俺に、「なーんかねぇ」仲良しこよしするのも今更な気もするのだと、ワタルさんはポツリ零した。


決着はつけたい、それは本心。

あの頃に戻りたい、それも本音。


互いのことを一番理解している、それも真実。


けれどあの頃と決定的に違うのは、元親友に対し絶対的な対抗心が己の中に芽生えているということ。ライバル視している面が多いらしい。


だから、この状況は今まで争っていた分、変な感じがしてならない。手を組むこと自体がしっくりこないとか何とか。


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