青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
俺はバイクに跨っている魚住の方を見やる。
彼は歩み寄って来る健太と会話を交わし、豪快に(そしてうざく)笑っていた。
つられてワタルさんも彼を見やり、似た者同士だから張り合いたくなったのかもしれないと一笑。
ワタルさんはなんだか状況を楽しんでいるようにも思えるんだけど……彼を見上げていたら、
「答えなんて幾らでもあるってぇ」
関係のあり方についてワタルさんは諭してくる。
焦って答えを出すもんじゃない。
決めた道があればそれを信じて歩けばいい。
男前なことを言って、俺の頭を小突いてきた。
「意外とさ、時間は必要なのかもしれないよんさま。時間が経てば変わるもの、ある……みたいなみたいな? カッコ良く言ってみた、みたいなみたいな?」
意味深にワタルさんは笑声を上げた。
俺はもう一度魚住の方を流し目。
彼は健太の頭を小突いてゲラゲラ笑っている。
瞬きをして光景を見つめた。
時間が経てば、か。
じゃあ俺と健太、時間が経てば少しは変わったりするものもあるのかな? 良し悪しに関わらず変わるものもあるのかな?
中学時代から高校時代(今)に渡って、時間が経ったから俺と健太の関係が一変した。悪い方向に。
また時間を重ねれば……変わるのかな。あいつと俺の関係。
――音音音音音音音音音音音音音音音、音!
ふと聞こえてきた音の重ね塗り。
まるで輪唱しているように音は音を追い、ついには大合唱を始める音たちが本隊の耳に届く。
夜空一杯に鳴り響く音はヨウ達の合図だ!
斬り込み隊のヨウ達、自分達の任務を成功したんだな!
弾かれたように俺達は顔を見合わせ、腕時計と睨めっこしていた日賀野はやっときたかとばかりに鼻を鳴らし声を張った。
「すぐ位置につけ! 打ち合わせどおり、本隊は前衛、救出隊は後衛だ。急げ!」
なんで本隊が前衛、救出隊が後衛かというと、後々救出隊は本隊から離脱して人質を助けるために移動するからだ。
実は俺も後衛でチャリを走らせる。
というのも、前衛を走っていたら後衛のバイク組の道を塞ぐことになるからだ。
やっぱチャリはさ、速度的にいえばバイクに勝てねぇって。
運転手もニンゲンなんだし?
ちなみにチャリ組は乗り込み隊と本隊と救出隊、各々いるわけなんだけど、当初の話ではチャリ組は救出隊オンリーだって決まっていたんだ。
救出隊が相手チームにばれないよう移動手段として使おうと考えていたんだけど……もしも見つかった場合を想定すると、全員がチャリだと相手がバイクだった場合対抗し難いじゃん? 日賀野はそれを考慮してちょっと作戦を変更。
チームに一つチャリを置いて状況判断その他諸々、バイクじゃできない細かな把握をチャリ組に任せた。
そのチャリ組の運転手を俺はそれを任されているってわけ。
ははっ、日賀野兄貴と一緒に把握しちゃうんだぜ! ……嬉し過ぎて泣きてぇ。マージ泣きたい。
指揮官は各々位置についた仲間達を確認。
前衛の本隊にまず大回りして敵数と位置を調べると告げ、一報は必ず寄越すよう命令していた。
挟み撃ち作戦のことを念頭に置いて、ヨウ達がいそうな場所はなるべく避けるよう言い放つ。作戦を決行する際は必ず連絡するからと付け足して。
次いで後衛の救出隊には自分の合図で移動するよう念を押し、前を見据えた。
「行くぞ。最高のショーにしようぜ」
シニカルに笑みを浮かべて、日賀野は片手で合図。
刹那、バイクのエンジン音が唸り声を上げて発進。
俺もチャリのペダルを強く踏んで本隊バイク組の後を追った。