青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
やや薄汚れている三台の自販機を目の前にして、何を飲もうか迷っている日賀野に目をやる。
俺達、今、人気のない道路の脇に設置されている自販機の前にいるんだ。
いかにも此処は人が通りませんっていうような場所。車通りも少なくてスッゲェ静か。
時々歩行人を見かけるけど、ワタシは何も見てませんよオーラを出しながら速足で通り過ぎていく。
俺達からは目を逸らして歩いていることバレバレだっつーの。
まあ……この様子じゃ俺達、不良に絡まれているようにしか見えないよな。
俺が歩行人だったら同じように通り過ぎるぜ。
被害に遭うなんて真っ平ごめんだもんな! 気持ちは分かるンだ。分かる。でもされると妙に腹立つのも本音!
「チッ、マイナーなメーカーばっか置いてやがる。シケてんなー。なぁ?」
「そ、そうですね。そっちのサイダーの名前とか、聞いたことないや。俺」
「……コンビニに行きますか? そっちの方がメジャーな商品あると思いますけど」
「メンドーだから此処でいい。しっかし……品揃えワリィな」
愚痴る日賀野が、自販機を軽く爪先で小突いた。
本人は軽くのつもりだぜ? かるーく自販機を蹴っている。
だけど俺達はその行為に縮こまっているんだ。
いやだって恐いじゃないか!
ヨウと対等の力を持つ不良が目の前にいるんだぜ?
しかも自販機に向かって苛立っているんだぜ?
舌打ちなんかしちゃっているんだぜ?
自販機蹴っちゃったりしているんだぜ?!
矛先がいつこっちに向くかと思うと、ビクビクしちまうって!
ちなみに俺達、ビビッてるけどチキンじゃない!
縮こまっちまうのは極々普通の生理現象。
誰だって不良を前にしたら俺達のような態度を取っちまう筈。不良相手に臆しない奴って、そうはいないと思う。
俺達はアイコンタクトを取りながら、日賀野の様子を見守っていた。
この隙に逃げるって手もある。
俺、チャリだから後ろに利二を乗せてさっさと退散! なんて余裕で出来ると思うんだけど、後々のことを考えると逃げるに逃げられない。
ふと日賀野がこっちを見てきた。
俺と利二は自然と背筋を伸ばしてしまう。一種の条件反射だよな、これ。
俺達のビビリ心情に気付いているのか気付いていないのか、日賀野が鼻で笑ってきた。何を思ったか隣の自販機に小銭を投入してボタンを押す。
ガランゴトンッ、飲み物が落ちてくる音が自販機から聞こえた。
日賀野はペットボトルを取り出して俺に投げ渡してくる。
びっくりしたけど片手でどうにかキャッチ。
日賀野は同じ動作を繰り返して利二にも投げ渡していた。
これは奢ってもらっているってことだよな。
俺と利二は日賀野に礼を言って、ペットボトルに目を落とした。
野菜ジュース。
何故、野菜ジュース?
チャリをその場にとめて、俺はおもむろにペットボトルの蓋を開けると一口野菜ジュースを飲む。
うん、野菜ジュースって感じ。これはアレだ。歌いたくなる。
「ビタミンはー歩いてこない。だーから毎日飲むんだねー。一日1本。三日で3本。毎日飲んでビタミンC」
「……田山、まさか一昔前の牛乳のCMの替え歌か?」
「……し、しまった。ついノリで」
利二が呆れ返って俺を見てくる。馬鹿じゃないか、そんな眼差しを投げかけて来た。傷付くぞ。その目。
「ククッ、お前なら何かやってくれると思ったぜ。プレインボーイ」
笑いながら日賀野が缶コーヒーを自販機から取り出している。