青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
「ほぉ、ダンマリってことは図星か? プレインボーイ。まーさーか? この俺に喧嘩売るようなこと、思っていたり?」
「(ビンゴ、犬と結婚すりゃいいとか思ってました)は、はははっ。まさか! 日賀野兄貴に喧嘩を売るなんて売るなんて」
「あ゛? 犬が何だって?」
お、俺、口に出していないじゃんかよー! なんで分かるの、この人!
あ……もしかして俺、顔に出ている? 出ている系?
だったら仕方が無い。
俺はいつでも何処でもどんな時でも正直ボーイで通しているからな!
もう知らね。
俺、しーらね!
今のことだけ考えようそうしようそうしましょう。
過去より今、未来より今、だ!
ド不機嫌になっている日賀野を余所に、「曲がります」俺は愛想良くそして親切丁寧に曲がり角を曲がると教えてやる。
アイデデデッ、なんか超肩を強く握られている。握り締められているんだけどっ!
く……くそ、ま、負けるもんか、俺だってヤラれっぱなしなんてごめんだからな!
俺は曲がり角を曲がる時わざとガサツに運転。
ガックンガックンとチャリは大揺れ。
肩を掴む手が縋る手に変わった。
へへっ、や、やってやったんだぜ。
ちょっとだけすっきり。
内心恐怖でいっぱいだけど、すっきりしたのも事実だ! ……アデデデデッ、肩っ、肩が痛いっす、日賀野兄貴っ!
「プレインボーイ……やるじゃねえか。今の、ワザとだろ?」
「ははっ、そういう日賀野さん。その手っ、ワザとですよね?」
「いや、俺の場合は握力が強いだけだからな」
「あ、でしたら俺の場合は地面の問題ですから。ほら、平らじゃなかったらガタガタ揺れますもん、チャリ」
「ほぉ? 問題の地面とやら。平坦でアスファルトのようなんだがな?」
「ははっ、日賀野さんこそ。最初よりも格段に握力アップしてますね。しっかり掴まるレベルの度が超えていますよ」
どーして張り合っちまうか分からないけど此処で屈したら俺の負けな気がするから、絶対屈してやらねぇぞ!
フルボッコは別として、口で言いくるめられて堪るか!
俺だってやるときゃやるんだぞ!
「プレインボーイ。後で覚えておけよ?」
「さあ、俺って物覚え悪いんで覚えていないかもしれませんね」
「ふーん」意味深に鼻を鳴らす日賀野、「へへっ」誤魔化し笑いを零す俺。両者の間に妙な空気が流れたりなかったり。
変に意地が出てくる俺は例え、日賀野大和から潰されるような勢いで肩を掴まれても表に出さず、寧ろちょいと荒い運転をして仕返し。
こういう場面こそ一致団結しなきゃいけないのに、俺と日賀野、水面下でちょいとしたバトルを繰り広げていた。
地味にもプライドってヤツがありやすから?
あんまり弄られキャラに成り下がっていると俺も黙っちゃーならんと思うわけですよ、はい。
つまりは単なる負けず嫌い。
俺も変なところで意地張るからな。
自覚はあるよ、自覚は。
あ、暴力は駄目だぞ。
喧嘩に持ち込まれたら俺は一気に意地の張り度が下がって不屈精神がポッキリ折れると思うから!
お互いに乾いた笑いを浮かべつつ(あ、俺だけかこれ)、チャリは颯爽と“港倉庫街”を駆け抜けて行く。
薄暗くて見えにくいけど、今は積まれたコンテナの街沿いを走っているみたいだ。
無機質な金属箱が俺達の様子を冷然と窺っている。
相変わらず俺達の間でバトルは繰り広げられているけど、ふと絶え間なく聞こえていたバイクのエンジン音が近くなっていることに気付いてバトルを中断。
険しい顔で日賀野は左右を見渡す。