青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―



「けれどヤマトさんに紹介された三日後の学校終わり。

周囲が不慣れな不良ばかりで気疲れを起こしていたおれは何となく、空を近くで見上げたくなってこっそりと屋上に向かったんだ。


三年間もこの学校でやってっけかなぁ? 不安を空を見ることで解消したかったんだ。


勿論屋上には鍵が掛かっている。職員室に行かないと屋上を封鎖している扉の鍵は開かない。


だけど、もしかしたらおれの手で開くかも。


通っている学校って結構古いから、使われている錠も古いかもしれない。

中学時代、よく圭太に見せていた手先の器用さを活かせるかも!


そう思いながらおれは屋上に続く階段を上って、鍵を解除するために持っていたクリップを伸ばして曲げて、見事に鍵を解除。


屋上に出て、澄み切った青空を学校で一番近い場所で見上げることに成功したんだ。

青空を見上げれば嫌なこと、気疲れも、ぜーんぶ吹っ飛びそう。


思っていた矢先。

おれの開けた扉から侵入者が一匹、それはアキラさんが紹介してくれた仲間、日賀野大和だった。

あの人はおれがピッキングで屋上に続く扉を開けた一連の流れを見ていたらしく、すこぶる感心と驚愕の念を抱いていたよ。

おれも侵入者に挙動不審になっていたけどさ、ヤマトさんはお構い無しにおれに声を掛けて興味を示してきた。


『昔、警察に世話になった口か? やけに手際が良かったが』


まあ、最初の興味は超失礼な質問から始まったけどさ。


『あ、いえ、べつに泥棒なんてしたことはありません。これは独自のピッキング。おれ、細かい作業が好きなんですよ。プラモデルを作るのが好きでしたから』

『ほぉ。取り得なさそうな面して、案外オモシレェ特技持っているんだな。他には?』


『(取り得のなさそうは余計だ!)配線を繋ぐことが得意ですよ。簡単なもの限定ですし、半田ごてが必要ですけど。機械の修理も、簡単なものなら』


そうやってヤマトさんと屋上で一頻り会話した後、あの人はおれを気に入ってくれてさ。

調子乗りの面は見せられなかったけど、意外と気が合ってグループに引き入れてくれたんだ。

おれ自身、案外話してみればこの人と合うかも、とか思ったしな。


まあ、おかげで喧嘩という生き地獄を目の当たりする羽目になったんだけどな。

マジ最初の一、二ヶ月は地獄だったぜ。
慣れろってレベルじゃねえもん。

相手が日賀野大和、魚住昭、その他諸々地元で名前がわりと知れている不良とつるんでいるもんだから……毎度の如く喧嘩はハイレベルだった」


「ははっ、分かる分かる。俺もヨウの舎弟ってだけで無駄に喧嘩売られてきたよ」


「半泣きどころか内心大号泣だったなぁ、あの頃。今でも喧嘩売られたら半泣きだろうけど……だけど一番ショックだったのはお前のことだったかなぁ。まさか、ヤマトさんと敵対している不良の舎弟をしているとは思わなかったしなぁ」


苦笑を漏らす健太に、俺も苦笑を零す。

そして暫し沈黙。実質俺達はまだ『絶交宣言』を交わしたまま。

宣言を撤回したのは俺だけだから、仲直りしたわけじゃないし“友達”に戻れたわけじゃない。


今は二チームが手を組んでいるから、気兼ねなく会話できているけれど。


……俺も健太も今のチームが大事なんだよな。


過ごす時間も、健太よりチームの方が多い。今の時間が輝けば輝くほど自然と中学時代の関係が色褪せていくのも片隅で理解はしている。


だからといって簡単に切り捨てられるほど、落ち目な関係でもないよ。俺等。少なくとも俺はそう思っている。



「あれ? ケイじゃん。何で此処にいるの?」



俺達の沈黙を切り裂いたのは当事者達ではなく、第三者。


背後から聞こえた丸び帯びる声質に俺は視線を投げる。

そこにはハジメのキャップ帽を大事そうに被った弥生、一緒に行動していたであろう響子さんに……いつもタコ沢と張り合っているイカバじゃんか。


ああそっか、皆はバイク組だから追っ手を撒いてこっちに来たんだな。


俺は弥生に片手を挙げて、事情でホシと交替してもらったのだと苦笑する。


モロバレな事情に弥生も響子さんも苦笑を返し、


「一緒に助けよう」


弥生がニコッと微笑んできた。


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