青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―




クソ馬鹿にしやがって。


なんで自分は缶コーヒーで俺達は野菜ジュースなんだよ。

奢ってもらっている身分だから贅沢は言えないけど、せめてジュースならコーラとかサイダーとか、この際オレンジジュースでもイイ。

お子様が好みそうな飲み物を買ってくれたって良いじゃないか。


同じ値段で飲み物買ってくれるなら、俺達の好みそうなジュース買え。


しかもこの展開、前にも経験したことあるぜ!


確かヨウと一緒に授業ふけて、あいつに奢ってもらった時だ。

あの時もヨウが何故か俺に豆乳を奢ってきたんだよな! なんで豆乳なんだよ、と聞いたら、 


「有り難く頂けよ? カラダには良いんだしな、プレインボーイズ」



それだ、それ!

ヨウも「カラダに良い」とかほざいたんだ! 忘れもしねぇ! 

不良はそうやって地味な俺達をからかうことがお好きなようだな! 地味な奴等がみーんな健康飲料水を好むと思ったか?


そりゃ違うぜ!

俺はミックスジュースも野菜ジュースも豆乳も嫌いな類に入っているんだ。


いたいけな地味ボーイズをからかうなんて悪趣味だぜバッキャロ。


心の中で精一杯、俺は悪態を付いてみた。

三年分くらいの悪態を日賀野にぶつけてみた。


当たり前だけど、日賀野に届いているわけなく笑声を漏らしっぱなし。

俺の悪態を聞いた瞬間、きっと拳が飛んでくるんだろうな。


想像しただけで身震い。


口には出せないな、今の悪態。


「おい、そっちのプレインボーイ」


日賀野が利二に声を掛けた。

利二が強張った表情で「何でしょうか」と返事、日賀野はニヤリと笑って財布を投げ渡してきていた。紛れも無くそれは利二の財布。


何時の間に盗られたんだ、目を丸くする利二は財布をキャッチして首を傾げている。


ってことは、この野菜ジュースも日賀野の飲んでいる缶コーヒーも利二の金かよ!


偉そうに言っておいて、これ利二の金か? おまッ、さっきの礼の言葉と金返せよ! こんなこと口が裂けても言えないけどさ!



「荒川と俺の関係、アイツから聞いているか?」 



突然、日賀野が俺に話題を吹っ掛けてきた。

俺は内心大絶叫を上げながら、表では愛想笑いを作って首を傾げ「関係?」と聞き返す。

さっき利二から軽くは聞いたけど、ヨウから日賀野のことは聞いてないし、どういう関係を指して言っているか分からなかった。

仲が悪いとか、そういう関係を聞いているのか?

「んじゃ、もう一つ。前回の騒動の経緯を、アイツから聞いたか?」

「前回っていうと、あの喧嘩騒ですか? いや、俺は何も」

「舎弟だっていうのに、何一つ聞いていないのか」


「確かに俺はヨウの舎弟ですけど……」


あの騒動のこと、ヨウの口からは何も聞いていない。俺から安易に聞ける雰囲気でもなかったし。

自販機に寄り掛かって缶コーヒーを飲んでいる日賀野は、俺の返答に「アイツは相変わらずだな」って鼻で笑う。


「救いようのねぇ馬鹿っつーか、能天気っつーか、ありゃミジンコ以下の脳みそだ。いっそくたばった方が世の中の為、お社会さまの為だな。考え方一つひとつが甘ぇんだよ、クズめ。死ね」


今、どれだけ、ヨウと日賀野の仲に溝が、あるか、たっぷりと見せ付けられたような気がする。


極力ヨウの話題は避けた方が良い。絶対良い。


じゃないと、俺、マジで殺されるって。


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