青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
「お前もそう思うだろ? プレインボーイ」
「ッ、うえぇ?!」
お、俺に振るか! ヨウの舎弟の俺に!
「ククッ、荒川の舎弟の俺に振るか? ってツラしているな」
「……あ、あははは。いやぁ、一応、俺、ヨウの舎弟ですし、ね。わ……悪くは言えないみたいな? あはははは」
心の中を読まれた。
こりゃ下手なこと思えないし言えないし行動できないぞ。
冷汗タラタラの俺は懸命に愛想笑いを浮かべて、日賀野からの視線を避ける。
隣にいる利二の顔色、土色になっている。
俺もきっとそんな情けない色してるんだろうな。
そんな俺達を面白そうに日賀野が眺めている。
甚振っていることに歓喜を覚えている、そんな顔。
視線がかち合うと、痛いくらいに背筋が凍った。
悪寒がする。
何かが起こる気がする。
本能が喧しいくらい危険信号を出している。
早く利二を帰さないと。帰さないと不味い気がする。
「利二。お前、時間迫っているだろ。行けよ、俺はまだ此処にいるから」
「……田山」
「グズグズするなって。いいから早く」
「何か起きる前にダチは帰す、って魂胆か。察しが早いな」
大袈裟なくらいに肩を竦めて、日賀野と視線を合わせる。
面白おかしそうに俺を見ている日賀野が自分の頭を指差して、口角をつり上げて不敵に笑った。
「本当にあの野郎の舎弟なのか? ってくれぇ、ココが回っているな」
皮肉った褒め言葉になんか一切、情を感じない。息を呑んで声を振り絞る。
「……単刀直入に聞きます。俺に何の御用ですか?」
「前に言ったろ、プレインボーイ。俺のテリトリーに大歓迎してやるって。その約束を果たしにな」
「それだけじゃ、ないでしょう?」
「鋭いな。気に入った」
俺は気に入られたくないし、気に入られても迷惑だっつーの。
寧ろ早く家に帰してくれ! ついでに休日という時間を俺に返してくれ! ナゲット奢ってもらった時のルンルン気分返せ!
目を細めて笑う日賀野が中身を飲んでしまった空き缶を放り投げた。
ポイ捨て禁止って常識の言葉、日賀野の辞書には無いと見た。
くぐもった笑いを漏らして歩み寄ってくる日賀野が、俺の肩に腕を乗せて寄り掛かってくる。
近くにいるだけで体の芯が冷えていく気がする。
完全に俺はこの男に恐れをなしているんだ。唾を飲み込んで恐怖に耐える。
どうにかこの間にも利二には無事に家に帰ってもらいたい。
でも利二は帰るに帰れないんだろうな。
視界の端でどうすれば良いか分からずに困惑して佇んでいる利二が映っている。気持ちは分かる、分かるぜ。
だけどお願いだから今のうちに帰ってくれ利二。
お前が帰っても俺は恨まないから。
そうしてくれた方が俺的に嬉しいんだ。お前を巻き込みたくない。
日賀野は俺が今まで出会った不良の中で一番ヤバイんだ。
いつも何を目論んでいるか分からないワタルさん以上に、日賀野の考えていることが分からない。
それが堪らなく恐ろしさを感じさせてくれる。
恐怖に耐えている俺に日賀野がフッと笑いを漏らした。