青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
アキラは嘘だと一目で見抜く。
目を細め、「帆奈美のことか……」言葉を掛けるが相手はそれ以上、こちらの話に耳を傾けてくれなさそうだ。
これは帆奈美のことで何か好からぬことを聞いたに違いない。
大抵、ヤマトが焦りを見せる時は彼女に関することだ。
あまり表には出さないが、彼は彼女のことをとても大切にし、居場所を提供している。
彼女を想い過ぎる面は今も中学時代も変わらない。
そして彼女に対して何も言わないところも。
キザで不器用な男だと半分呆れ、半分憂慮を抱きながら、アキラはバイクに乗った。
ヤマトもまたアキラのバイクに乗り、こちらの指示に注目しろという意味合いを込めて指笛。早口で今からの作戦を伝える。
「これから荒川達と合流する。戦力の配置も大半が分かったしな。
まず作戦の形式は挟み撃ち。荒川達が攻めたであろう正面を避けて、反対側から攻め込む。S-4倉庫の出入り口は貫通しているからな。
裏から回り、S-4倉庫を突き抜けて合流することも可能だ。
いいか、合流する際は躊躇の一切を捨てろ。
この作戦ほど勢いが重要視される作戦はねぇ。
バイクもしくはチャリで一気に雪崩れ込むぞ。
五十嵐は戦力の大部分を自分のところに寄せている。大きな戦力ほど隙がある。そこを突くためにも、勢いとスピードは落とすな。
最後にバイク組、俺の指笛が聞こえたらホーンを鳴らせ。
荒川達への合図、向こうへの怯みに使えるからな。戦闘は俺達がする。いいか、遅れを取るな」
そこまで説明を終えたヤマトは一呼吸。刹那、夜空一杯に広がる声音で、「行くぞ!」片手を挙げた。
すると一斉にモーター音が辺りに響き、バイク達が発進する。
誰よりも先にバイクを発進させたアキラは、
「裏から回るんじゃな?」
再三再四確認。
頷くヤマトは海の面ではなく、倉庫が連なっている物陰を通って行くと答えた。
了解だとハンドルを切るアキラは速度を上げて、周囲に敵の姿がいないかどうか見張ってくれるようヤマトに頼む。
承知はするリーダーだが、多分無意味だと彼は言葉を重ねた。
「さっきも言ったが戦力の大部分は親玉の下だ。協定達があらかた向こうの協定を片付けてくれているしな。見張りっつー見張りはいねぇだろ」
「懸念しているのかのう? ワシ等のことを」
「というより、どんな狡い手でやってくるかってことに怯えているんだろうぜ。これで負けたら面子も立たないだろうしな。まあ、立たないようにしてやるけど」
ニッと笑うヤマトはアキラの右肩を掴み、
「ぶっ飛ばしてやる」
二度と舐めた口をきけないように叩きのめす、とギッリギリ握り締めた。
どうでもいいが、自分はとばっちりではないだろうか。肩がすこぶる痛いのだが。
アキラは軽く溜息をつき、真っ向から吹く風を頬で感じる。何事も無いといいのだが……何故だか胸騒ぎがする。
「ヤーマト。帆奈美にゾッコンは分かるんじゃが、あいつのことで無茶するんじゃないぞい。お前はいーっつも帆奈美のことになると熱くなるからのう」
「……別に。メンドクセェ女のことなんざ」
「はぁ。こういう時だけなーんで誤魔化そうとするんじゃい。中学から片思いをしていたくせに。お前はいつもそうじゃい。
ヨウと帆奈美の関係を見守ったり、わざわざ支える側に回ったり、いつも自分が損する。
帆奈美を抱くステップまで踏んでいるのに、なーしてお前は……そうなんかのう。真っ直ぐ気持ちを伝えれば良いのに、屈折ばーっかじゃいお前の気持ちは。苛々するぞい」
「フン、るっせぇよ。勝手にしとけ」
これだもんな、この男。
損ばかり選択する理由がイマイチ分からない。
否、分かるがそれは結局自分のエゴであり、ある種我が儘だとアキラは思っている。自ら貧乏くじを引くような我が儘ばかりだ、本当に。
ヤマトのことだ。
どうせ相手を困らせたくない、泣かせたくないが念頭にあるのだろう。惚れた弱味とでもいうべきなのか、なんというべきなのか。
直球に気持ちを伝えられない損な性格をしているのだ、自分のダチは。
いつだって変化球なダチは随分と直球な性格を持つ向こうのリーダーに羨望を抱いていたようだが……おっと、そろそろ喧嘩と作戦に集中しなければいけないようだ。