青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
「不運だな。荒川の舎弟になんざなっちまうなんて。まあ、そのおかげで? お前はラッキーなことに俺に出会えたんだがな」
ヒッジョーにアンラッキーだよ、チクショウめ。精一杯毒を吐く。あくまでも心の中で。
「荒川と俺の関係、噂くらいだったら知っているだろ」
「あ……あまり仲が宜しくないとかナントカって程度なら耳にしましたけど」
「それだけ知っていたら上等だ。俺と荒川は、噂以上の仲でな。互い顔を合わすだけで虫唾が走る。無論、荒川とつるんでいる奴等も虫唾が走って仕方がねぇ」
んじゃ、つるんでいる俺も非常に虫唾が走るのでは? 見透かしたように俺の疑問に日賀野は答えてくれる。
「舎弟がこんなプレインボーイとは思わなかったからな。正直言って拍子抜けって気分だな」
「ひょ、拍子抜け……」
「なんだ? 虫唾が走るって言われた方が良かったか?」
面白いヤツだな、日賀野が小ばかにしてくる。
いつもだったらカチンくるところだけど、恐怖の方が勝って頭にくることはなかった。
早くコイツから解放されてぇ。家に帰りてぇ。
不可能に近いことを懇願してしまった。
「プレインボーイ。俺達の中で舎弟を作るってどういう意味か分かるか?」
なんでそんな質問してくるんだろう? 疑問を抱きながら答えた。
「……弟分を作ってことですか」
「ま、弟分ってのも半分当たっているが、俺達が舎弟を作るってことはソイツに“背中を預ける”ってことだ。分かるか? クッサく言えば誰よりもソイツに信頼を寄せるんだよ。自分の後継者を作ったことにもなる」
「じゃあ、俺は今ヨウの背中を預かっていることですか? そりゃちょっと荷が重いっつーか、無理っつーか……こ、後継者? 俺がヨウの?!」
「なんだ。それさえ教えてねぇのか、アイツは」
あの喧嘩の強い、顔がイケてて女の子にモテモテのヨウの後継者だって? 地味で平凡で喧嘩に弱い俺が後継者。
女の子にモテないし、彼女作ったコトだってないし……嫌味だ。
そんなの、嫌味の他に何もねえよ。
ヨウは俺に嫌がらせをしたかったのか。
……いやヨウの場合は、
「多分面白半分に舎弟にしたんだろうな、俺のこと。うん、あいつならきっとそうだ」
「だろうな。アイツはそういうヤツだ。フツーはプレインボーイを舎弟にしないしな。ま、お前が面白いっていうのは分かるがな」
全体重を肩に乗せてくる。ハッキリ言って重てぇ。スッゲー重てぇ。
「なあ、プレインボーイ。背中を預けた奴から刺されたら、アイツはどんな顔をすると思う?」
感じていた重たさが吹き飛んだ。
恐れていた日賀野の顔を凝視して、俺は言葉を詰まらせる。
察しがいいとばかりにニヤ付いてくる日賀野は、俺の耳元でそっと囁いた。
「意味、分かるな?」
「ッ、ま、ま、待ってくれよ! 俺、ヨウの舎弟なんだ。そこらへん……分かって……ヨウを裏切れってことか?」
「ああ、分かっているぜ。アイツにとって苦痛の一つは信頼を寄せていた奴に裏切られること。プレインボーイ、お前、俺の舎弟になれ」
日賀野の舎弟、に、俺が?