青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
「ヨウの舎弟……やめろってことかよ」
「別にアイツの舎弟なんざやめろとは言ってねぇだろ? 今までどおり、表ではアイツの舎弟に成り下がっとけばイイ。ただし裏では俺の舎弟にも成り下がっとけっていうことだ」
日賀野の考えていることが手に取るように分かる。
表面上はヨウの舎弟に成り下がっておいて、実は日賀野の舎弟として動けって言いたいんだろ。
ヨウの舎弟の立場にいる俺を利用して、あいつを何かしらの方法で貶めようとしているんだ。
心臓を射抜くような視線が俺に教えてくれる。
俺は目を背けた。
そんなこと出来る筈ないじゃないか。
そりゃヨウのせいで災難ばっかり降りかかっているけど、ヨウを憎むほど恨みなんか無いし、ヨウを裏切るようなことはしたくない。
知り合って日は浅いけど、あいつが仲間思いだってことも知っているし、馬鹿みたいにひとりで突っ走ることも知っている。
あの騒動のことで礼を言ってくれたヨウを思い出すと、俺、尚更裏切るなんて。
黙り込む俺に日賀野が口笛を吹いて、口角をつり上げる。
「現状を見ろよ。このままだとお前、どーなりそうだと思う?」
「でも……」
「利口になった方がお前の為なんだがなッ、と!」
「と、利二!」
日賀野の踵が隣にいた利二の腹部に食い込んだ。
利二は息を詰まらせてその場に座り込む。
眉を寄せて喰らった蹴りに悶える利二は、擦れた声で俺に大丈夫だと告げてきた。やせ我慢だってのは誰が見ても一目瞭然。
喧嘩慣れしている日賀野の蹴りだぜ。痛いを越えている筈。
日賀野はニヒルに笑って俺を見下してきた。
「カワイソーに。さっさと返事を出さないから、オトモダチがおイタな思いしてるじゃねえか。どうする? もう一発、オトモダチに蹴りお見舞いしてやってもいいが」
「これは俺とあんたの問題ッ、利二は関係ないじゃないか! 利二は不良でも、俺みたいに舎弟でも」
「お前と関係を持っている。理由はそれだけで十分じゃねぇか?」
言葉に詰まった。
きっと俺がまた黙り込んで迷う素振りを見せれば、日賀野は利二に危害を加える。
俺だけの問題が利二にまで降りかかるなんて。
下唇を噛み締めて、俺は握り拳を作った。
ヨウ……お前のこと、嫌いじゃないぜ。
お前、不良で母音に一々濁点付けて恐いとこあるけど、話していて俺と同じ普通の高校生だってのも分かったし、仲間の為に必死こいて走る姿、知れて良かったと思うし。
遠回し礼を言ってきてくれたこと、正直スッゲェ嬉しかったんだ。
お前のこと、やっぱ裏切りたくなんかねぇ。
でも俺にとって利二も大事な友達なんだ。
薄情だけど、親身になって俺の話に耳傾けて、純粋に心配してきてくれる大事な友達なんだ。
だから。
答えを出した俺は日賀野を見据えた。
返答を待っている日賀野が俺の心を見透かしたように目を細めてくる。
何考えているか分からない眼に臆しながら、重たい口を開いた。
瞬間、胸倉を引っ掴まれた。日賀野に掴まれたんじゃない、腹部を押さえ悶えていた利二に掴まれた。
「フザけるな。許さない、お前の考えている返答は絶対に」
「と、利二」
「おいおい。邪魔をするのはナンセンスじゃねえのッ、か、!」
日賀野が利二の横っ面に拳を入れた後、腹部を思い切り蹴り飛ばす。
倒れる利二に思わず俺は肩に乗っている日賀野の手を振り払って利二に駆け寄った。
蹲っている利二を抱き起こせば、キッと怒りの含んだ眼差しを俺に向けて胸倉を掴んでくる。
唇が切れたのか、それとも口の中が切れたのか、口端から血が出ている。
それに構わず利二は擦れた声を振り絞ってきた。