青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
「ホッケー。次は……ふぁ~……誰だ? ……眠い」
「ヨウさん、オレとしましょうよ! オレと! オレと!」
「あー? 俺かよ」
「だってさっき負けましたし! リベンジです! 今度は勝ちますよオレ!」
「ったく、仕方ねぇな」
モトの気遣いに幾分明るくなった表情を滲ませるヨウは、携帯をポケットに捻り込んだ。
きっとその内、連絡が来るだろう。明日学校に行けば聞けるのだから。
自分に言い聞かせ、ヨウが腰を上げたその時、三階のフロアに誰かが上がってきた。
外に出ているワタルが戻ってきたのかと思ったが、上がってきたのは見るからに地味そうな少年だった。
顔を顰めて腹部を押さえている。
此処はよっぽどの事がない限り、彼のような人物が足を踏み込むことは無いのに。
間違って上がってきたのだろうか。
不良の溜まり場になっていることを知らないのだろうか。
しかし、ヨウはあの少年を見たことがある。
確かあの少年はいつもケイと一緒にいた……名前は知らないが、確か一緒に……。
フロアに足を付けた瞬間、少年はその場に膝を突く。
傍らにいたココロがおろおろしながら、少年に「大丈夫ですか」と声を掛ける。
少年は頷いて腹部を押さえながら、ヨウの元へ向かう。が、途中でまた膝を突く。自分に用があると察し、ヨウは少年に歩み寄って膝を折った。
此方が声を掛ける前に、少年が弾かれたようにヨウを見上げて腕を掴んで名乗ってきた。
少年は利二というらしい。
利二は縋るようにヨウを見つめた。
「田山。田山をッ、助けて下さい……田山をッ、」
血の気が引く。
たった今まで念頭に置いていた舎弟の話題を振られると思わなかった。
「ケイ……ケイに何かあったのか!」
「日賀野大和が田山を狙ってッ、あいつ、舎弟になれとか言われて、けど……あいつ、貴方を裏切れないからッ……舎弟を断って。
あいつ、このままじゃ日賀野に、日賀野に殺されるッ……殺されてしまうッ」
息絶え絶えに言葉を紡ぐ利二を凝視して、ヨウは彼の両肩を掴んだ。
「ヤマトがケイを狙ってきたんだな! ヤマトの野郎ッ、舎弟に目を付けてきたんだな?!」
「さっき電話があったでしょう……あれッ、日賀野と一緒で」
じゃあ、あの時電話が不自然に切れたのは、ヤマトと何かあって……腕を握り締めてくる利二が苦言した。
「貴方をッ、裏切れないからって思って、あいつ、苦渋の選択の上で断って。そんなことしたらどうなるか分かっていたから……自分だけ逃がしてくれて……あいつ、このままじゃッ、助けてやって下さいッ!
あいつ、あいつ、貴方のように喧嘩出来ないし、不良じゃないしッ、ハッキリ言って足手纏いかもしれません……だけど、貴方の顔に泥を塗らないようッ、何があっても自分で対処しようと努力しているんです。
あいつ変なところでカッコつける馬鹿だから、不良相手でも自分で対処しようとしているんです」
言葉を吐き捨てた利二の両肩を掴んで、ヨウは真っ直ぐ彼を見据えた。
「ケイは、ケイは今何処にいる?!」