青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
「更にこの話には続きがある」
「え、俺。まだ何かシでかしています?」
「あれは伸した相手を道に放置して、その場を去ろうとした時だ。例のチャリ爆走男、そうテメェはあの場所に戻って来たんだよ。テメェは急いでいたようで、びゅんびゅんチャリを加速させていた。
だからか、気絶している不良に気付かず、腕を車輪で踏んづけちまったんだ。
感触によって、何かを踏んづけたことに気付いたテメェはチャリを漕ぎながら、こっちを振り返って、こうのたまった。
『犬のフンとかじゃ、ないよな? 今踏んだの』
いやちげぇよ。お前、不良を踏んづけたんだよ。なのにテメェは道端に寝転がっている人間を、まさか自分が車輪で踏んづけたとも思っていないのか、
『気持ち悪い感触だったなぁ。うぇっ、犬のフンだったらマジついてないや』
犬のフン。あいつ、不良を踏んづけて、犬のフンで結論付けやがった。ボケーッとテメェを見送った俺は、この後大爆笑だった。久々に腹抱えて笑ったぞ」
思い出し笑いをするイケメン不良・荒川は、口元を押さえて「マジ爆笑」と笑いを噛み殺している。
俺は頬を掻いて、荒川庸一の様子を見守ることしかできなかった。
(人の腕だったのか。あの感触。ぜってぇフンだと思っていたんだけど)
一頻り笑いを噛み殺していた荒川は落ち着きを取り戻したのか、「仲間に話したらウケていたぜ」と言ってくる。
「月曜、学校に来てみりゃ、あのチャリ爆走男を見かけた。興味があった俺はそいつのことを調べた。それが田山圭太、超地味で平和主義そうなフッツーの男子生徒だったわけだ」
反論できないことがスッゴク悔しいんだけど。
どうせ地味ですよ。普通ですよ。貴方さまと比べれば、モテない冴えない微妙な日陰男子生徒ですよ。
「じゃあつまり俺が呼び出されたのは……」
相手をチラ見すると、
「もち礼を言うためだ」
これでも義理堅いのだと荒川は意気揚々に答える。ガムはお礼の品だとか。
体中の力が抜けそうになった。
よ、よ、良かった!
俺はリンチにされるために呼び出されたのではなく、単にお礼を言われるために呼び出された男なのですね!
お礼を言うなら体育館裏に呼び出しをしなくても良いじゃん。
その場で直接言ってくれたら良かったじゃん。
片隅で思うけど、そんなツッコミも入れられないくらいに嬉しい。ほんっと安心した!
「わざわざありがとうございます。なんだか季節はずれのバレンタインプレゼントを貰った気分ですよ」
「やめれやめれ。男同士で友チョコとかハズイだろうが。しかもバレンタインとかいい思い出ねぇんだ」
「荒川さんはモテそうですもんね。キャ、田山ジェラシー!」
「お前何キャラだよ! いや、俺、ホワイトデーが誕生日なんだ。誕生日なのに出費って……むなくねぇ?」
「ごめんなさーい。俺、モテない男なんでその虚しさには共感できません」