きみがため
八重は町にあるかんざし屋の娘だという。
そんな八重が髪に挿しているのは至って素朴なかんざしだった。
「私などが身につける物はこのくらいで調度良いのです」
そう言って笑った。
八重はよく笑う人だ。
ころころと日だまりのように温かく笑う。
それと同時に、愛らしい花のようでもあった。
八重の笑顔は波及して、僕の頬をもほころばせる。
僕は何かと理由をつけては一人で見回りに出て、八重と逢瀬を重ねた。