きみがため
剣先を下げ、構える。
そして相手に刀を抜く隙すら与えずに斬る。
「……く、……ぅ」
もう見慣れた、恐れや恨み、そして悲しみの入り混じった瞳。
それはすぐに光を失う。
だけどそれによって何の感情が起こることもない。
目の前で朽ちてゆくものに、いちいち想いなど残せない。
残していたら何も斬れない。
むせ返るような血の匂いが充満する部屋で、僕は一つ息をつく。
「……さて、終わりましたね」
にっこりと、僕は笑った。