きみがため
八重のそばに向かって河原に下りる。
八重は僕があげたかんざしを身につけていた。
それに気づいて僕の頬が少し緩む。
会えなかった時間を埋めるかのように、八重も僕もよく話した。
そしてよく笑った。
この一瞬一瞬を大切にしたい。
何より愛しいこの時間を。
「八重さん、このかんざし……」
僕が懐からかんざしを取り出すと、八重は「あっ」と声を出した。
「持っていて下さったんですね」
安心したような八重に、僕は優しく微笑んだ。