きみがため

「ごめん。なんでもないよ」


八重を誰にも渡したくはない。
だけど僕のものにもできない。


「無理を、なさらないで」


僕は八重の言った意味が分からなかった。


「無理?」

「なんでもない、だなんて。そんな哀しい目をしていらっしゃるのに」


どくん、と全身の血が激しく巡り始めたような気がした。

八重に、僕はどんな目を向けていたのだろう。

八重は、どんな気持ちで居るのだろう。

僕はただ、愛しくて、哀しい。


「僕は、僕の選んだ道から外れることはできません」
< 46 / 71 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop