きみがため
「ごめん。なんでもないよ」
八重を誰にも渡したくはない。
だけど僕のものにもできない。
「無理を、なさらないで」
僕は八重の言った意味が分からなかった。
「無理?」
「なんでもない、だなんて。そんな哀しい目をしていらっしゃるのに」
どくん、と全身の血が激しく巡り始めたような気がした。
八重に、僕はどんな目を向けていたのだろう。
八重は、どんな気持ちで居るのだろう。
僕はただ、愛しくて、哀しい。
「僕は、僕の選んだ道から外れることはできません」