きみがため
いよいよ屯所全体が慌ただしくなってきた。
浅葱色の羽織りがバタバタとそこらじゅうで翻る。
それを横目に見ながら、僕はただ八重のかんざしを握りしめていた。
ずるいよね、僕は。
一方的に絶った関係なのに、未だこうも縋り付きたくて。
こんなずるい僕に、八重は呆れてしまうだろうか。
だけど八重の呆れ顔でさえ、きっと僕には眩しいのだろう。
もうすぐ僕は大阪に送られる。
新撰組でも、八重の隣でもない、遠い場所。