きみがため


いよいよ屯所全体が慌ただしくなってきた。

浅葱色の羽織りがバタバタとそこらじゅうで翻る。

それを横目に見ながら、僕はただ八重のかんざしを握りしめていた。



ずるいよね、僕は。

一方的に絶った関係なのに、未だこうも縋り付きたくて。

こんなずるい僕に、八重は呆れてしまうだろうか。

だけど八重の呆れ顔でさえ、きっと僕には眩しいのだろう。


もうすぐ僕は大阪に送られる。

新撰組でも、八重の隣でもない、遠い場所。
< 59 / 71 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop