きみがため
屯所に戻ってからも、彼女の美しい横顔が瞼にちらついた。


「どうしたんだ沖田、ぼんやりして」

「近藤さん! いや、何でもありませんよ」


僕はいつもと変わらぬようにヘラリと笑って見せる。


「そうか」

「そうですよ」


もっとも、近藤さんはそんなことでごまかされる人ではない。

だけど深く追求しないのは、彼の優しさだ。


「まぁ良い。饅頭食わんか」

「はい。いただきます」


甘味処に寄り道しなくてよかったなと、心の中で呟いた。
< 6 / 71 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop