きみがため
今にも溢れそうな涙を必死に堪える八重に、胸がきゅっと絞まる。
「だけど、僕の心は、八重さんばかりを求めていました」
そう言うと、八重の頬がわずかに赤らんだ。
「八重さんを想うことで、僕は自分が“ひと”であることを、忘れないでいられました」
感情すら必要ないと思っていたけれど。
僕は八重のおかげで、心ない鬼にならずに済んだ。
「本当は、ずっと、会いたかった。会って、伝えたいことがあった……」
込み上げてくる切なさに、言葉が詰まってしまう。
八重は僕を支える腕に力を込めた。