きみがため
ひとを愛せたこと。
そのひとに愛されたこと。
夢の中の出来事みたいに信じられないけど、唇に感じる温かさが実感をくれる。
愛しい。
一目会えれば良いと、無我夢中で走ってきたけれど……。
八重を感じるほどに、もっと沢山感じたくなる。
もっと沢山の時間を八重と過ごしたくなる。
手に入れて初めて知る、大切なものを失う怖さ。
せめて今だけは、八重を腕の中に感じていたい。
二人が二人であることを実感したい。
八重と僕自身の存在を確かめるように、八重を強く抱きしめる。
八重の優しい鼓動が、僕のそれと重なった。
【終】