車輪の唄
窓を拭くのに、窓辺に立って下を見てみた。


たくさんの人たちが寒そうに体を屈めながら行き交っている。


「こんな寒い日に出掛ける気になるからだよ」


独り言を言いながら窓を拭きあげていると、来客のブザ-が鳴った。


「今岡さんお願いしまぁ-す」


やる気のない声で私が言い終わるか否かのタイミングで今岡がスタジオを飛び出ていった。


「元気だねぇ…」


私的には今岡はあまり好かない男だ。


他の同僚たちから今岡が私に好意を寄せていると話を聞いたことがあるが、それが定かじゃない。


でも私の行く所、やることなすこと全てに今岡がいたり加わってきたりすることから、事実なのだろうけど。


「葛西さん、バンド入ります」


スタジオの入り口から今岡が顔を出して言った。


雑巾とバケツを持ってスタジオを出ると、例の"凄いバンド"がスタジオ入りを待っていた。


何故か全員が帽子を被り、サングラスをかけている。


「お待たせしました」


頭を下げて前を通り過ぎようとしたとき、白いダウンを来た人とサングラス越しに目が合った。
< 14 / 66 >

この作品をシェア

pagetop