車輪の唄
「お願いします、葛西さん」


榊原は満面の笑みで挨拶をし、清掃道具を持って近寄ってきた。


「あ、うん…じゃあ行こっか」


スタジオの掃除は、まず楽器をどかす所から始まる。


楽器というか、アンプだ。


女だったら二人がかりじゃないと持ち上がらない。


持ち上げられても、腰を痛めるほど重たい。


次は掃き掃除で、拭き掃除で、窓拭きで終了。


「葛西さんってぇ、彼氏とかいないんですかぁ??」


甲高い声で、楽しそうに榊原が話しかけてきた。


「いないよ」


掃き掃除をしながら、私は淡々と答えた。


「えぇ!?絶対いると思ってたぁ。めちゃくちゃ美人なのに意外ですね」


美人といわれて悪い気はしないが、個人的に信用していない人間から言われても嬉しいと思えない。


嫌な性格だ、と自負するが、誉められた事で舞い上がって誰にでもいい顔をするくらいならマシじゃなかろうか???


「榊原さんも可愛いじゃん。人形みたいだよね」


社交辞令的に切り返すと、榊原は異様に喜んだ。


こいつ、社交辞令って知らないな…
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