車輪の唄
「はぁ……」


上総とは、あれからすぐ別れた。


道が分からなかったら連絡して、と告げて手を振った。


その後ろ姿が見えなくなるまで見送った。


さっきから私は溜め息ばかりついている。


目に浮かぶのは上総の笑顔で、聞こえるのは上総の声だ。


もはや病的なまでに、のめり込んでいる。


「だから駄目だって!!!」


独り言ばかり言ってにやけている私は誰だろう。


自制心は、ある。


あるから、まだ独り言程度で治まっているのだと思う。


上総は、私より一つ年下だった。


出身は北海道で、プロを夢見て上京してきた。


松阪出身のメンバ-がいるらしく、年が明けるまで松阪にいるらしい。


帰り道に別れてから交わしたメ-ルで、これだけだが上総の事を知る事ができた。


今日はいい日だったと心から思える。


…だけど、何かが違う。


素直に喜ぶ事が出来ないのも事実だった。


こんな短時間で惚れ込んで、大丈夫なのかという自分への不安が大きすぎるのだ。
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