車輪の唄
この曲もそうだ。


下手に恋愛だけを歌っている流行の曲よりも、流行していないけれど中身のある一曲の方が説得力を持っていると思うから。



…今夜は暮れる空の尊い模様を真っ直ぐに仰いでる、明日も幸せに思えるさ…



あたしが透明人間になったら…


くだらない事だが、考えるだけなら楽しい。


そんな考えるだけの世界を、椎名林檎の曲は持っている。


シートを中途半端に倒して、もう一度車道に目をやる。


色んな色の車が通り過ぎる。


歩道も色んな人が歩いていく。


女子高生、シルバーカーを押したおばあちゃん。


腕を組んで歩いていくヵップル。


自転車に二人乗りして煙草を吸いながら悪ぶっている中学生…


こんな狭い町にもたくさんの人の人生があって、あたしからはこんな光景にしか映らない。


向こうからしても、『MAJESTAの中で、車に似つかわしくない女が煙草を吸っている』そんな風に映るのだろう。


あたしが今、ここで上総を待っているなんて事は上総とあたししか知り得ない事なのだ。


あたしが迷っていて、上総に電話したことを後悔しているなんてことは、あたししか分からないのだ。


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