車輪の唄
高校の修学旅行で、本当ならあたしも北海道へ行けるはずだったのだが…前日になって原付バイクで事故、右足を複雑骨折して入院。何とも馬鹿な出来事で一生に何回行けるか分からない北海道旅行を無駄にした。


「馬鹿だなぁ、江夏は」


上総はその話を聞いて腹を抱えて笑った。


「うるさいなぁ…あほ」


ハンドルに寄っ掛かって、ふてくされた振りをした。


「飯食いに行こうよ。俺おごるからさ」


笑いすぎて出て来た涙を拭いながら上総は言った。

子供みたいなその一面を見て、私の心は温かくなった。

車を走らせ、近くのファミレスに入る。

走っている間中、上総はMAJESTAの機能にはしゃぎまくってダッシュボードを開けたり閉じたりしていた。

私はそれを横目に椎名林檎の美声に聞き入った。


「新宿は豪雨
あなた何処へやら
今日が青く暮れていく東京」


群青日和が流れている。

上総がDVDを眺めて目を見開く。

「この曲、俺大好き」

音量を上げる。

鼓膜をつんざくような甲高い声に包まれる。

上総もやっぱりバンドマン、椎名林檎がお好きらしい。
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