うさのさんの動物観察日記
うさのがシャワーを振り回したお陰で、浴室は全体がびしょ濡れだった。
しかし、唯一乾燥している場所があったのだ。
うさのの目の前…お湯が出てくるステンレス製の蛇口の上だ。
中に暖かいお湯が蓄えられているので、水がかかってもその熱で蒸発していく。
こ、これだ!
これしか道は、ない!
この暖かい蛇口の上に、羽虫を水玉ごと移せば、水は蒸発していき、濡れて重くなった羽虫の足や羽を優しく乾かすことができるに違いない。
うさのは、指先をタオルで丁寧にぬぐうと、慎重に指を水玉に近づけた。
表面張力の作用で、水玉は羽虫と一緒に、うさのの指先に移動する。
いいぞ。
我ながらクレバーな手法だ。
あとは、この水玉を蛇口の上に置けば…
羽虫を苦しめていた水が引いて行き、
羽虫が気持ち良さそうに目を細めながら、毛繕いをする様子を思い浮かべた。
この方法がうまくいけば、うさのは「世界で初めて、溺れている羽虫を救った人」になるのではないだろうか。
いや、そんな名誉が欲しいわけではない。
―ただ、目の前で命が苦しんでいたから。それだけです。
インタビューに答えている自分の姿を思い浮かべながら、うさのは指先の水玉を、そっと蛇口にのせた。