うさのさんの動物観察日記

このアリは偵察部隊だったようで、近くにまだアリの道はできていない。仲間も援護に来くる気配はなかった。

・・・このアリは、一体どこまでこのシャケを運ぼうとしているのだろうか。

うさのは一旦アリとシャケから目を離し、近くのアリの巣を探した。
2、3歩歩いたところにアリの巣があり、たくさんのアリが出入りしているのを見つけた。

ふむふむ。ここが彼の家か。

ヒトなら2・3歩だが、アリにとっては上野と池袋くらいの距離にはなるだろう。
しかも巨大なシャケを持っているので、山手線には乗れない。
タクシーに乗るお金もない。
アメ横で買い物をし過ぎて困ってしまったオバチャンのようだ。

あぁ、このままだとお昼時間が終わるまでに、アリがシャケを巣穴に運ぶのを見届けることができない。
お昼時間どころか、日没までに終わるかどうかも怪しくなってきた。
巣穴に巨大な食べ物を運び入れる、という場面は、「アリさんが食べ物を巣に運ぶショー」の最大の見せ場なのだ。

小さな巣穴をふさぐように置かれた食べ物。
アリたちは、食べ物が巣穴の口を通過できない、と見るや
食べ物の下の土つぶを一つずつ、巣穴の外へ運びにかかる。
そうしていくと、少しずつ少しずつ、食べ物が地面の中に沈んでいって、ついには地中に消えていくのだ。

見たい。
久しくその光景を見ていないので、是非見たい。

がんばれ、アリさん。
早く巣穴のところまで運んでくれ。

うさのはアリのところに戻り、応援した。
今の自分にできることは、それしかなかった。


・・・はっっっ!


うさのの頭に、ひらめきがほとばしった。

うさのにもできることが、ある!



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