鬼の火まねく赤子の声
「何であんたは、千鶴子なんよ」
 沖は思わず外に出た。すると白峰はそこで壁を蹴り続けていた。容姿端麗な白峰の蹴り方とは思えないほど激しく、醜い涙がそこにはあった。
 それは決して、白峰が沖を好きだったからではない。ただ自分を差し置いて、気味が悪いと有名な妹である千鶴子の方が愛されている。それが悔しくてならなかったのだと思う。
 だから沖でなくて良かったのだ。たまたま千鶴子と噂になっているのが沖だったから白峰は沖を誘惑したのだ。
 本当に色の白い女だった。胸もそこそこあって、温かかった。それが庭の泥で汚れるのはおもしろかった。
「沖い」
 白峰は何度も沖を呼んだ。口づけを交わす時。首に舌を這わせた時。だけど沖はそのままの状態で白峰を放り出した。千鶴子が起きたのだ。
「お兄ちゃん?」
 家の中から千鶴子が顔を出した。
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