鬼の火まねく赤子の声
「ああ、千鶴子。起きたのか」
 沖はそう言うと、飲みかけのお茶を置いて行くのと変わりない風に、裸の白峰を泥の上に置いて家に入った。そして、そのまま千鶴子を抱いた。
 白峰はきっとその二人のやり取りを聞いていたと思う。自分の身に何が起きたかも分からないままに。
 沖は自分を悪い男だとは思わなかった。誰からも愛されるのが当然だと思っている白峰なんて別にどうだって良かった。
 だけど、そんな日に限って白峰は死んでしまったのだ。
「白峰ちゃん、服を着てなかったって」
 それ以上言わなかったけれど、白峰は自殺だろうと思われた。けれど、それはあてつけの死だ。
 沖は白峰よりも千鶴子の方がよっぱど大切だった。白峰が死んでしばらくは、みんな白峰がいかに美しかったかを語っていたが、しばらくすると変わった。
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