鬼の火まねく赤子の声
「沖い」
「何や?」
 沖を何度も呼ぶ千鶴子の髪に頬を沿わせて笑いかけた。それが千鶴子に見えなくても良かった。見て欲しいから笑うわけではない。千鶴子のすること言うこと、可愛かった。
「坊のこと好きか」
 千鶴子の言葉に沖はそうやなあと言った。
「赤ん坊ってのはこんなうるさいもんなんかなあ」
 聞き返した沖に千鶴子はうなった。
 千鶴子は風の声を聞く。沖は赤子の鳴き声を聞いた。
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