鬼の火まねく赤子の声
沖は黙って聞いていた。
 おぎいや、沖いや、沖いあ。
 激しく壁がなる。力強く白峰が泣く。どうして千鶴子なのと泣く。
「坊が泣いてる」
 背中で千鶴子が呟いた。千鶴子の顔を見ようとしたが、千鶴子は沖の肩に顔をうずめたままだった。
「そうやな」
 窓の外を見た。真っ赤な火が音を立てて燃えている。
「綺麗やなあ」
 沖はじっとそれを見た。
鬼火はひどく赤く空を覆っていた。いつもなら千鶴子を染める火は、沖を染めていた。
「あの中に飛び込みたくなるわ」
 沖がそう言った時、首に激しい痛みを感じた。
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