鬼の火まねく赤子の声
髪の長さだけが違った。だけど、沖にとっては狂った女の方が千鶴子で、姿勢良く歩く女が白峰。だから二人とも鬼の形相をしていれば二人とも千鶴子だったのだ。
 健全な魂などないのだ。
「許さん」
 背中で白峰がまた沖の肩に歯を立てた。
「あんたが千鶴子を殺したんや」
 白峰は沖を好いてなどいなかった。同じ顔を持って、でも同じではなかった千鶴子を可愛がっていた。
「沖い」
 毎夜、好いてもない男に妻だと思われ抱かれていた白峰はどんな風に空を見ていたのだろう。真っ赤に火の灯った空を。
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