鬼の火まねく赤子の声

「沖い」
　千鶴子は沖に気づくと、両手をあげて起き上がらせてくれと言った。手には人形が持たれていたので、脇の下に両腕を入れて、沖は千鶴子を抱きしめるように起き上がらせた。千鶴子は沖の胸の中で顔をすりすりと摺りつけた。
「あんまり外でじっとしてたら凍えてしまうで」
　もう秋は過ぎ、冬の気温になっていた。そんな中、千鶴子は半そでのワンピースを着て、上から薄いカーディガンといった服装だった。このワンピースは沖が千鶴子に買ってやったもので、当時も今もいたく気に入っているようで、よく着てはいた。だけど、連続してその姿でいるということは、本格的に白痴になったか、ただ幸せだったあの頃に戻りたいという願望の表れなのかもしれない。