鬼の火まねく赤子の声
同情が愛情にとって変わるなんてよくある話だ。柱に話しかける千鶴子を人は気味悪いこと言ったし、実際、伸び放題の髪を地面に這わせて四つんばいで沖を見上げる千鶴子は妖怪のようであった。
それは白峰をさらに輝かせた。
 肩までの髪を綺麗にそろえて、背筋を曲げることもなくさっそうと歩く様は見事だった。そんな白峰はどうも、沖を嫌っていた。他の者に対しては決して表情を崩したりしない白峰は、千鶴子と一緒にいる沖を見るたびに眉間にシワをよせて目を背けた。それがとてもおもしろくて、沖は白峰が通る時、必ずと言って良いほど千鶴子を抱き寄せていた。
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