君想論 〜2人のサヤカ〜
「あぁ、いいぞ」
履いていたスニーカーを適当に脱ぎ捨て、下駄箱から上履きを取り出した。
その際、[梧 清花]と目が合った。
昨日、昼休みに廊下を引きずり回したことからは想像もつかない程、穏やかで優しそうな目で桐野くんの顔をジッと見ていた。
「な……何だよ……??」
「いいえ……何でもないです……」
そう言って、口元をほんの少し緩ませ[微笑]と表現するのに相応しい小さな笑みを作った。
く…糞っ……なかなか可愛いじゃないか……
あ゙ぁー、いやいやいやッ!!!!違う違う違う!!!!騙されてはいかん!!!!
コイツはただの重い中二病を患った豹変女だぞッ!!??
第一、オレには椎名ちゃんという将来を約束した嫁が……(妄想)
(……ん……??)
そう言えばコイツ、杖をついているが、独りで上履きを履けるのだろうか……??
などと考えていると、
「よいしょっと……」
キュートな掛け声と共に杖に重心を預けながらその場に座り込むと、一旦杖から手を離し、両手を使って上履きを装着し始めた。
「……………」
普段、何気なく数秒で行っているような所作も、こうも手間で時間が掛かってしまうとはね……
難儀な話だ。
「お待たせしました……では……行きましょう……」
「へっ……!!??あ……、あぁ……」
って!!!!
何で律儀に待っていたんだオレは……!!??
こんな女……サッサと置いていけば良かったんに…………
「……………」