君想論 〜2人のサヤカ〜


「あぁ、いいぞ」


履いていたスニーカーを適当に脱ぎ捨て、下駄箱から上履きを取り出した。

その際、[梧 清花]と目が合った。

昨日、昼休みに廊下を引きずり回したことからは想像もつかない程、穏やかで優しそうな目で桐野くんの顔をジッと見ていた。


「な……何だよ……??」

「いいえ……何でもないです……」


そう言って、口元をほんの少し緩ませ[微笑]と表現するのに相応しい小さな笑みを作った。

く…糞っ……なかなか可愛いじゃないか……

あ゙ぁー、いやいやいやッ!!!!違う違う違う!!!!騙されてはいかん!!!!

コイツはただの重い中二病を患った豹変女だぞッ!!??

第一、オレには椎名ちゃんという将来を約束した嫁が……(妄想)


(……ん……??)


そう言えばコイツ、杖をついているが、独りで上履きを履けるのだろうか……??

などと考えていると、


「よいしょっと……」


キュートな掛け声と共に杖に重心を預けながらその場に座り込むと、一旦杖から手を離し、両手を使って上履きを装着し始めた。


「……………」


普段、何気なく数秒で行っているような所作も、こうも手間で時間が掛かってしまうとはね……

難儀な話だ。


「お待たせしました……では……行きましょう……」

「へっ……!!??あ……、あぁ……」


って!!!!

何で律儀に待っていたんだオレは……!!??



こんな女……サッサと置いていけば良かったんに…………









「……………」




< 188 / 249 >

この作品をシェア

pagetop