君想論 〜2人のサヤカ〜
―――…………




メロンパンを片手に教室へと帰還した桐野くん。

戻る最中の廊下で、念入りに辺りを見渡したが、毎日“幻のパン”にありついていると言う[柿金一世]の姿は確認できなかった。

これでもし、本日の“幻のパン”が柿金の手に渡っていたとしたらただ事ではない。

もはや、八百長としか言いようがないからだ。


そんな疑念を抱きつつ、教室の中に歩を進めて行くと、顔面を突っ伏し机と同化している[梧 清花]を視界に捕らえた。

教室を出た時のままだ。


「やれやれだ……」


どうやら寝ているらしい。

が、金を受け取っている手前、商品を渡さずにはいられない。

本来だったら、机の上にポンと置いて立ち去るのだが、コイツには弱みを握られているため無闇な対応は禁物だ。

しっかりと手渡しした方が当たり障りないと判断し、眠れる中二病患者(仮)を起こすことにした。


「おい、梧ー」

「……………」


『返事がない。ただの美少女のようだ』

などと冗談を言っている場合ではない。


「おーい、起きろっつーの」


肩の辺りを軽く揺すってみるが、なかなか反応が帰ってこない。


「梧さーん……??」


今度はさっきよりも強めに体を揺すってみた。

具体的に言うと、顔の位置が若干微動するくらいの強さだ。

コレなら起きるだろう。


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